俳優の演技について言及する際、カメレオン俳優という言葉をよく聞くが、真反対の役柄を演じきる七変化だけでなく、感情をグッとおさえた無の表情や、一瞬だけキラリと光る演技も魅力的。怒涛の爆発型から誰にもマネできない個性派まで、今観たい俳優たちを紹介したい。
どんな作品をも際立たせる確かな存在感
オールラウンドで個性が光る! 滝藤賢一
シリアス、コメディ、時代劇にハードボイルド。どんな作品でも唯一無二の演技で存在感を発揮する。とにかく彼の良さは声。『クライマーズ・ハイ』の追いつめられた新聞記者役で注目を浴び、性格俳優としての地位を確立する一方、ポップな作品にも多数出演している。4月には『東京独身男子』(テレビ朝日系/土曜23時15分〜)がスタート。週末の夜を盛り上げてくれそうだ。
振り切るだけではない!演技の柔らかさも 吉田鋼太郎
『MOZU』の不気味な殺し屋で話題をさらったと思えば、『おっさんずラブ』では主人公を想う乙女心でSNSを賑わせた吉田鋼太郎。振り切る幅の広さは非凡、誰にも止められない凄みもあるが、ドラマ初主演となった『東京センチメンタル』では、いたって普通の恋多き下町の和菓子職人をやわらかく演じ、こちらの味わい深さも素敵だった。
どんな空気にも溶け込んでしまう若き名バイプレイヤー
秘めたる想いを隠し持つ 泉澤祐希
『アンナチュラル』の第5話で恋人を殺された青年を演じ視聴者を魅了した泉澤祐希。『表参道高校合唱部』の高校生役も『グッドワイフ』第1話の父親役も心に響いた。秘めたるものを抱きかかえながら、ここと言う時にキラリそれを光らせる瞬発力は彼ならでは。やる気のない新入社員を演じる『わたし、定時で帰ります。』(TBS系/火曜22時)や『ひよっこ2』で彼の演技を堪能してほしい。
物語を左右する名バイプレイヤー 渋谷謙人
連続ドラマのゲストとして登場し、物語の生命線を担っている渋谷謙人には、ぜひ注目してほしい。『健康で文化的な最低限度の生活』のヒモ男や『今日から俺は!!』の不良など、素行の悪さで視聴者を苛立たせたり、命がけで友だちを守った『トレース~科捜研の男~』で視聴者を泣かせたり、物語にスパイスを効かせる俳優だ。
どんな個性的な人物も作品に溶け込ませる名優
一瞬でその人物の奥底までを見せる 山田孝之
俳優としての実力は周知のとおりだが、『コンフィデンスマンJP』の特殊造形師ジョージ松原しかり、『今日から俺は!!』の支配人役しかり、本筋に関わらない人物を演じる時でも、その人となり、奥底までを見せてしまう、まさに奇才。次に何が飛び出すか、楽しみでしかたない。
謎めいているのに親近感あり 池田鉄洋
『医龍』の外科医・木原役のせいか、コミカルな印象が強い池田鉄洋。社会派や時代劇にも出演している本格派だ。個性的な出で立ちからか、ドラマを観ながらノーマークでいいのか警戒するべきなのか、いつも想像力が刺激されて、それが楽しい。謎めいているのに、画面のこちらとの距離がいたって近い。絶妙のタイミングで魅せる人懐こい笑顔が、そうさせるのだろう。
カメレオンを越えた演技は、モンスター?
全身からみなぎる圧巻のエネルギー 役所広司
人間のあらゆる感情を丸裸で見せてくれる役所広司。『キツツキと雨』の木こり、『孤狼の血』の刑事、『陸王』の老舗足袋屋の社長、すべての人がエネルギッシュで高らか。体の奥から絞りだす魂は、涙となり怒りとなり希望となる。モンスター級に心震わせられる演技だ。
表情豊か、なのに読みきれない奥深さ 香川照之
『半沢直樹』や映画『七つの会議』など、表情豊かに喜怒哀楽を見せる演技はネット上でも話題だが、「何かあるな」と表情の裏まで匂わせるのが彼のすごさ。わかりやすい演技から腹の底を見せない演技まで、どれも圧巻だ。4月には日曜劇場『集団左遷!!』(TBS系)がスタート。重厚×コミカルな新しいモンスターが登場するだろう。
俳優を論じる要素はいろいろだが、心にしっかり届いたなら、それは名演技である。論じるより感じることを忘れずに楽しみたい。