結婚すれば同居するのが「ごく普通」のありようだ。だが、同居してみたものの、なぜかうまくいかず別居に踏み切った夫婦がいる。いったい、なぜそうなったのか、そして別居後の暮らしはどうなったのだろうか。
結婚して住んだのは彼の2LDKの部屋
2年前、1年ほどの交際を経て結婚したナミさん(40歳)。相手は同い年のフリーランスのWEBデザイナーで、ナミさんは塾の講師をしている。
「私は夕方からの仕事が多く、彼は朝型なので早起きして朝から仕事。すれ違いが多かったので、じゃあ一緒に住もうかという話になったんです」
ところが一緒に住んでも、時間的なすれ違いは埋まらない。彼が夜型になることはなく、ナミさんの仕事が昼間からあるわけでもない。
「私が家にいる時間は彼が仕事をしていて、私が帰ってくると彼は寝ている。なんだか結婚した意味がないとイライラしてきて……。彼の部屋に私が越したので、彼は彼で今まで誰もいないところで仕事をしていたのに私がいるから気が散るみたいなんですよね。一息つこうとリビングに来ると私がいる。話したくなくても話さなくてはいけない。そんなことがお互いにストレスになっていったんだと思います」
彼の仕事には週末がない。ナミさんも週末のほとんどは仕事だ。お互いに、『仕事をしなくていい日』が『休日』となる。それが一致すればどこかに行くこともできるが、なかなか一致しない時期もある。子どもはなりゆきに任せていたが、1年過ぎてもできなかった。
「年齢的なこともあるから、最初から子どもは期待していませんでした。それでも一緒に暮らしたら楽しいだろうなと妄想を抱いていたんですよね」
お互いにひとり暮らし歴が長い。自分のペースでの生活に慣れきっている。そんな中で、もやもやした感情をふたりとも抱いていることに気づいていた。
別居を申し出てみたら
「彼のことは大好きだし、ときどき『これから海辺で朝ご飯を食べよう』と真夜中のドライブを提案する彼の、ある種のクレイジーさも大好き。このままふたりの関係をうまく続けるためにはどうしたらいいかと考えたら、いったん別居することだと思いついたんです。彼にそう言うと、『生活費は大変かもしれないけど、やってみよう』という返事。彼もストレスだったんだと思います」
ナミさんは彼のところから徒歩3分の1DKを借りた。彼が手伝ってくれて、引っ越しは短時間で終わった。ふたりで外に食事に行き、帰りがけに「じゃあね」と自分のマンションに帰った。
「自分の部屋のベッドに寝転んだとき、すごく解放された気がしたんですよね。私は結婚に向いてないのかもしれないと思ったくらい」
数日後、彼にそう話したら、「オレもそうだった」と彼は言った。
「ふたりとも優先順位は仕事なのかもしれませんね。そのために相手によけいな気を遣いたくない、自分の時間も確保したい。ふたりともそう思っているんだとよくわかりました」
別居後は、お互いに時間を合わせて一緒に食事を作って食べることも逆に増えたという。
「まれに彼が夜遅くまで起きているときは、『帰りに寄る? おいしいシチューを作ったよ』と彼から連絡がきたりします。そういうときは泊まっていったりもする。とにかくお互いに自由にしながら、ふたりの時間も作ろうということで考え方が一致したんです」
ストレスがたまっていた時期は、もう離婚したほうがいいのだろうかと思ったことさえあるというナミさんだが、今はお互いに精神的に余裕をもっている。
「どっちかが風邪をひいたら看病もできるし、私が忙しくてどうにもならないときは彼が来て料理してくれることもあります。こういう暮らし方が、私たちには合っているんでしょうね」
夫婦だから同居しなければいけないと決めつけると、気持ちが不自由になる。別居婚はナミさんたちにとっては理想的な暮らし方なのだろう。