1月上旬からおよそ1カ月にわたって繰り広げられるアジアカップは、アジアの勢力図を見定める好機だ。ロシアW杯でアジア勢唯一のベスト16入りを果たした日本は、森保一新監督のもとでもアジアのリーダー的存在となっているのだろうか。アジアチームの現状とともに分析する。
強豪イランは「アジアカップ後」に不安が?
アジアカップのグループリーグ3試合を終えた段階で、優勝候補の呼び声が高いのはイランだ。イエメンを5対0、ベトナムを2対0で退け、イラクとは0対0で引分け、首位で決勝トーナメント進出を決めた。
在任8年目に突入したポルトガル人のカルロス・ケイロス監督のもとで、ロシアW杯のメンバーが大多数を占めるチームは他を寄せつけない強さを見せつけている。30歳を超えたベテランも含まれているが、彼らに頼りきりではない。24歳の点取り屋サルダル・アズムンらの次世代が、チームのコアメンバーとなってきている印象だ。対戦相手との力関係に開きがある大会序盤は、明らかに余力を残しながら戦っていた。
気になるのは「アジアカップ後」だろうか。ケイロスがコロンビア代表監督へ転身するのだ。長期政権後の新たなチーム作りは、どのチームにとっても簡単ではない。
イランに次いで評価が高いのは、W杯常連国の韓国、オーストラリア、日本である。アジアカップの大会序盤は“違い”を見せつけられなかったが、この3カ国は海外クラブ所属選手が多い。それぞれに事前合宿などを実施したものの、準備万端で大会に臨んだわけではない。
たとえば、韓国である。大黒柱のソン・フンミンは、昨秋のアジア大会に出場した代わりに、アジアカップの初戦と第2戦は欠場した。イングランドのトッテナムでプレーするキャプテンを加えたチームは、第3戦からワンランク上のプレーを見せるようになった。
第2グループは実績ある監督を迎えるも…
ここまで名前をあげた4カ国をアジアの第1グループとすれば、第2グループを構成するのはサウジアラビア、ウズベキスタン、イラク、UAE、カタールといった国々だ。
ここに名前をあげた国々は、すべて外国人監督に率いられている。
サウジアラビアはアルゼンチン出身のフアン・アントニオ・ピッツィで、ロシアW杯から引き続きチームを指揮している。ウズベキスタンのアルゼンチン人指揮官エクトル・クーペルは、ロシアW杯でエジプト代表監督だった。1990年代後半から2000年前半にかけて、スペインのリーガ・エスパニョーラで成功を収めた智将だ。日本代表の前監督である西野朗さんと同じ1955年生まれの63歳である。
イラクは2002年日韓W杯のスロベニア代表監督スレチコ・カタネッツが束ねている。彼は選手としても、旧ユーゴスラビア代表の一員として1990年のイタリアW杯に出場している。UAEの先頭に立つのは、元日本代表監督のアルベルト・ザッケローニだ。
第2グループの国々に問われるのは、監督を信じることができるかどうかだろう。中東の国々には、結果が出ないとすぐに監督をクビにする傾向がある。長期政権がほぼ成立していない。それが、イランとの特徴的な違いだ。
ウズベキスタンはそこまで監督の入れ替わりが激しくないが、これには監督を変えたくても他国とのパイプがなかったという事情もある。クーペルとは2022年のカタールW杯を目ざすとのコンセンサスが取れているので、じっくりと強化をしていけば第1グループに食い込んでいけるかもしれない。
第2グループのなかで、カタールは先を見据えた強化をしている。スペイン人のフェリックス・サンチェス監督は、2014年から育成年代の強化に関わってきた。22年のW杯には開催国として出場できるので、アジアでの戦いに一喜一憂することもない。アジアカップも20代前半の選手を中心に戦っており、18歳の選手もメンバー入りしている。
将来的な成長という意味では、東南アジアの国に伸びしろが大きい。タイはJリーグでプレーする選手が増えたことで、全体のレベルが上がっている。初出場のフィリピンは自国にルーツを持つ外国育ちの選手を帰化させることで、チームの可能性を拡げている。チームを統べるのはイングランド代表監督などを務めた名伯楽スヴェン・ゴラン・エリクソンだ。
アジアカップの日本は完成形ではない
さて、日本の立場は?
アジアカップでは絶対的な強さを見せることはできていないが、そもそも日本はベストメンバーで臨んでいない。
ロシアW杯でセンターバックのレギュラーだった昌子源は、1月に鹿島アントラーズからトゥールーズ(フランス)へ移籍したばかりということもあり、今回は招集を見送られている。昨夏に鹿島からセルクル・ブルージュ(ベルギー)へ新天地を求めた植田直通も、アジアカップには参加していない。GK中村航輔(柏レイソル)、MF山口蛍(ヴィッセル神戸)、宇佐美貴史(デュッセルドルフ/ドイツ)らのロシアW杯メンバーも招集外で、ロシアW杯アジア予選で活躍した久保裕也(ニュルンベルク/ドイツ)、浅野拓磨(ハノーファー/ドイツ)、井手口陽介(グロイター・フュルト/ドイツ)らも選ばれていない。そして、森保監督のもとで背番号10を背負ってきた中島翔哉(ポルティモネンセ/ポルトガル)も、アジアカップにはケガのために出場してないのだ。
ドルトムントで出場機会に恵まれず、今冬の移籍が取り沙汰される香川真司にしても、所属クラブでのプレー時間が増えれば代表復帰は視野に入ってくる。森保監督が兼任する東京五輪代表の世代では、ともにセンターバックを定位置とする中山雄太と板倉洸が、オランダのクラブに移籍した。板倉はイングランドの名門マンチェスター・シティと契約したあとのレンタル移籍となる。彼が新たにプレーするフローニンゲンには、日本代表の堂安律が在籍している。
アジアカップのチームが不完全というわけではないが、完成形でもない。今後も様々な組み合わせを探ることができる。東京五輪世代の海外組の増加は、日本代表のチーム内競争を激しくしていくだろう。
アジアにおける日本のプレゼンスは、今大会の結果に関わらず依然として高いのだ。