夫の浮気は絶対に許さないと決めていた。それなのに、いざ浮気が発覚したら、案外平気だった自分がいて、そのほうがショックだったという話を聞いたことがある。
外でしてくれるならそれでもいいかと思ってしまった
同い年の男性と結婚して17年、高校生と中学生の子どもがいるナツミさん(48歳)。結婚以来、ずっと「どういう関係であれ、浮気したら離婚するから」と夫に言い続けてきた。それはもちろん、夫を愛しているから。そんな夫の様子がおかしくなったのは半年前だ。
「薄々わかりますよ。こそこそ脱衣場までスマホを持って行ったり、週末はいつも家でうだうだしていたのに突然、趣味の教室に通うと言ってみたり。私の知らない夫の姿がありましたから」
悩んだり不安に陥ったりする期間が長引くのは精神衛生上、よろしくない。そう思ったナツミさんは、寝室で夫に「好きな人がいるんでしょ」とさりげなく、しかしストレートに聞いた。夫は一瞬、表情がこわばり、激しく瞬きを繰り返した。
「いいわよ、わかった。どういう嘘をついてこの場を凌ごうか考えているんでしょと言ったら、夫は突然、ベッドの上でがばっと土下座して……。『ナツミを傷つけるつもりはなかった』『一瞬の気の迷いで』と言い訳を始めたんです。そのとき、私、とても冷静で怒りがわいてこなかった。悔しくもないし、嫉妬もしない。これは疲れているからだと判断して、『ま、いいわ。また話そう』と自分から打ち切って眠っちゃったんです」
翌朝、夫は一睡もできなかったような顔で起きてきた。その夫の顔を見ても、自分がないがしろにされたとか他に女を作るなんてひどいとか、そういう感情がわかなかったという。
「むしろ、家庭を壊そうとしないならいいか、という気になっていました。家庭を壊したとしても、それに見合うお金を払ってくれるなら、私もフルタイムで働いているしやっていけるかななんて考えていた」
自分の愛情のなさを確認して……
夫の浮気をきっかけに、よく考えたら自分も夫に愛情を抱いていなかったと気づいてしまったのだ。そのことがいちばんショックだったとナツミさんは言う。
「家庭はうまくいっていたし、夫は子どもたちにはいい父親だったし。私も夫を愛していると思い込んでいたんです。でも情はあっても愛はない。それがわかって、なんだか心を病みそうでした」
学生時代からの親友に相談した。すると彼女は「どこの夫婦もそんなものじゃないの? 情があればやっていけるでしょ」とさらりと言った。「そう言われて少し落ち着きましたけど」
その後、夫が恋人と会っているのか、そもそもどういう関係なのかもわからないままだ。家庭は一見、平穏に続いている。夫との会話もごく普通だ。
「正直言って、揉めるのがめんどう。お互いに不機嫌になると、子どもたちも不愉快でしょうし。そもそも仕事もしているからめんどうなことは持ち込まれたくないんですよね。そう思ってしまうこと自体、私の気持ちの中に夫への愛が欠けているんだと思うけど」
夫婦なんてそんなもの。今はそう思えても、いつか夫と二人きりになったとき、自分がどういう気持ちになるのか、先が見えないとナツミさんはため息をついた。