夫の愛人が妻に会いに来るとき

妻が愛人に会いにいくという話はときどき聞く。夫の浮気がわかったとき、「どんな女か興味半分で」訪ねていくことが多い。その結果、揉めごとが大きくなるのは必須なのだが、少なくとも最初の時点で、妻側にはそれほど悪意がない。

もしも突然、夫の愛人が会いに来たら……

土曜の深夜ドラマ「あなたには渡さない」(テレビ朝日)が始まった。原作は連城三紀彦『隠れ菊』である。

旬平(萩原聖人)の愛人・多衣(水野美紀)が、料亭の若女将である妻・通子(木村佳乃)に会いにくるところからドラマは始まった。多衣は旬平の署名入りの離婚届を持ってきて、通子にサインを迫る。そして、通子を妹のように思っている笠井(田中哲司)もからみ、壮絶な四角関係を暗示させる初回ではあった。

妻が愛人に会いにいくという話はときどき聞く。夫の浮気がわかったとき、「どんな女か興味半分で」訪ねていくことが多い。その結果、揉めごとが大きくなるのは必須なのだが、少なくとも最初の時点で、妻側にはそれほど悪意がない。

だが、愛人が妻に会いに行くとなると、そこには明確な「略奪」の意志がある。
「夫の彼女が私に会いにきたこと、ありますよ」
そう言うのはアキエさん(46歳)だ。2年ほど前、外出から帰ってくると、自宅前に30歳前後の女性が立っていた。

「何かご用ですかと声をかけたら、ものすごい目力でにられまれて。気持ちが悪くなって家に入ろうとしたら、『私、あなたのご主人とつきあってるんです。いつか結婚してくれるって……。どうして離婚してくれないんですか』と切り口上で言うんです。なんとなくその前から夫の様子がおかしいと思っていたので、彼女を連れて近くの喫茶店に行きました。そこでいろいろ話を聞き出したんです」

年齢差もあったせいか、ある種の余裕を感じるが、実際にはそのときのアキエさん、冬なのに背中にだらだらと汗が流れるほど緊張していたという。

「当時、夫は49歳です。私には、若い女性と関係をもって、彼女が妻に直訴したくなるほど期待をもたせているようにしか思えなかった。彼女が言うことが本当なら、先に離婚を切り出せばいいんです。離婚する気もないくせにこそこそ関係をもって彼女の人生を狂わせている。それがなんだかたまらなかった」

その日はなんとか彼女をなだめて帰し、帰宅した夫をとっちめた。離婚話が先だろうと問いつめると、夫は「いつか結婚するなんて言ってない。それは彼女の妄想だ」と土下座して泣いた。

おそらく彼女を口説く段階では、「妻とうまくいっていない」とか「いつか離婚するつもりだ」などと言ったのだろう。既婚男性が独身女性を口説くときの常套句である。それを真に受けてしまったのは、彼女がまじめで、夫を本気で好きなのだろうとアキエさんは感じた。

「どっちと別れるのよと夫を責めると、『彼女と別れる』と。その場で彼女に電話させました。私も電話に出て、『夫が悪いのは重々承知。だけどあなたも既婚者の言うことを真に受けてはいけない。今後、もし会っているのがわかったら法的措置をとりますから』と告げました。本当に別れたみたいです。もうあのことはなかったこととして考えていますが、ときどき思い出しては腹が立ちますね」

彼女は、家の前に立っていたときの愛人の目が忘れられないという。敵意に満ちたあの眼差しが、今もときどきアキエさんを苦しめている。

Lineで送る Facebookでシェア
はてなブックマークに追加

注目の連載

  • どうする学校?どうなの保護者?

    「PTAがないと保護者は学校や行政に要望できない」はホント? 思い込みが要望の実現を妨げる例も

  • 「正直、日本ってさ…」外国人に聞くぶっちゃけニッポン

    「身長が193センチあるので……」日本大好きなニュージーランド人が、日本の電車で困っていることは?

  • 恵比寿始発「鉄道雑学ニュース」

    国鉄特急を回顧する写真展を鉄道博物館で開催! 今はなき「絵入りトレインマーク」も展示

  • ヒナタカの雑食系映画論

    『先生の白い嘘』のインティマシー・コーディネーター不在を改めて考える。「入れれば万事OK」ではない