タイトルに「坂」がつく作品がかもしだす雰囲気
2018年秋クールの『僕とシッポと神楽坂』では、なつかしくて温かい神楽坂の風景が週末の夜を優しく癒してくれた。緑が丘が舞台となった石坂洋二郎の『陽のあたる坂道』や、佐世保の峰坂が印象的だった映画『坂道のアポロン』など、タイトルに「坂」がつくと、心の風景が広がる。知らず知らずのうちに誰もが持っている「坂」へのイメージが物語に奥深さを作り上げるのだろう。
日本の名「坂」を楽しめる作品
日本にはタモリさんをはじめ「坂」を愛する人が多く、研究も活発だ。日本の坂100選も存在する。ドラマでは、そんな日本中の美しい坂を楽しむこともできる。
海が見える坂道が清々しい、『てっぱん』の舞台となった尾道の坂や、『最後から二番目の恋』でケンカしたり笑ったりしながら千秋(小泉今日子)と和平(中井貴一)の大人の恋物語をやさしく見守った鎌倉の坂は、住む人の心をつつむ気持ちのいい坂。
『ランチの女王』の最終回で、なつみ(竹内結子)らキッチンマカロニのメンバーが訪れたのは、函館の八幡坂。観ている人を笑顔にする明るい坂道だった。
また、サスペンスにもよく登場する京都の産寧坂(三年坂とも言う)も、木造家屋が並ぶ風情豊かな名坂のひとつだ。
「坂」がつむぐ物語
希望の光を見せてくれる「坂」
坂道を上り下りすることは人生に似ている。下りは容易くスピードも速いが、それは人生の転落を思わせることもある。一方で上りは厳しく時間もかかるが、上ったところから見える風景は格別。傾斜の具合や曲がり具合で光の入り方や臨める景色が変化するのも坂の魅力の1つだ。
通勤、通学、家と駅の間に坂があるドラマは多い。『逃げるは恥だが役に立つ』の平匡が住むマンションや『家政婦のミタ』の有須田家も坂道を上ったところにある。坂道を歩きながらの会話には、オフィスや学校では見せない和やかな表情が見えた。
『義母と娘のブルース』で主人公・亜希子(綾瀬はるか)の義理の娘、みゆき(上白石萌歌)が一人暮らしを始めた家も坂の上。気持ちのいい坂道とみゆきの希望にみちあふれた未来がとけ合ったすてきな最終回となっていた。
『アンナチュラル』の最終回では、主人公のミコト(石原さとみ)の母・夏代(薬師丸ひろ子)が、坂の途中で「絶望している暇もない」と電話で言うミコトに「最高じゃない」と笑顔で応えた。ここにも希望の光が差していた。
青春の光を映し出す「坂」
『Nのために』では島の風が吹き抜けるなか、成瀬慎司(窪田正孝)が自転車で坂道を駆け抜け、『ウォーターボーイズ』シリーズでは高校生たちが全力で自転車を走らせた。青春の「坂」は力強く、上り坂も勢いがある。加速する下り坂も躍動感にあふれている。
一方、勾配の厳しい坂道が時に儚く映ったのが映画『坂道のアポロン』。坂道を上り下りする躍動感もあれば切なさもある。「坂」にはピュアで多感な若者がよく似合うのだ。
坂道は私たちの体験や想い出を呼び起こしながら、ドラマを奥深いものにしてくれる。ドラマと親和し新しい景色を見せてくれる坂にも注目し、ぜひ、楽しんで観てほしい。