転校を機につっぱることを決心した高校生の三橋貴志(賀来賢人)が相棒の伊藤真司(伊藤健太郎)とともにケンカに恋にとツッパリ道を謳歌する『今日から俺は!!』。古めかしいようで、新しいおもしろさを感じる、笑いたいからみたくなる作品だ。
「マンガ原作ドラマ」の魅力とは?
最近はマンガが原作のドラマばかりだと眉をひそめる声はよく聞く。2000年代以降、確かにマンガ原作の増加は顕著だ。はじめから台詞はできあがっているし、すでに知名度ある作品なら視聴率も期待できそうで、ドラマ化にあたっては制作サイドの安易さを感じる視聴者もいるだろう。
しかし、原作ファンが愛する作品の世界観を維持する難しさや、連ドラや単発ドラマにするために内容を時間内におさめる高い技術の必要性を考えると、単純に安易とは言い難い。世界観を維持するための役づくりも難しいのだ。そんなマンガ原作ドラマの魅力を紐解いていこう。
昔からつくられ続けているシンプルなおもしろさ
実写化の歴史は長い。『鉄腕アトム』『忍者ハットリくん』『意地悪ばあさん』といった名作だってドラマ化され、かつての少年たちはワクワクしたことだろう。
『今日から俺は!!』にも、ちゃぶ台を囲んで家族でアハハと笑った時代のシンプルなおもしろさを感じる。三橋が白い眼をむいただけで「ほらほら」「あらあら」と家族で笑える風景は、テレビにワクワクした時代の微笑ましさすら感じられる。
映像がマンガの世界をグッと広げる
タイムスリップ、特殊能力、現実を超えた世界が多いのもマンガ。映像技術の進化が実写化の可能性を広げているのも事実だ。実写=チープといった違和感も解消され、今では迫力ある描写を楽しめる。タイムスリップを描いた『信長協奏曲』や『JIN-仁-』の壮大なスケールも映像あってこそ。 ケンカが多い『今日から俺は!!』も、バカバカしさ一色ではない。素手での殴り合いもなかなかの迫力だが、三橋のスピードパンチや飛び蹴りに時折スパイスの効いた映像が加わり「三橋すげえ」と背筋が伸びる。マンガの世界を豊かにする実写化は価値があるのだ。
熱い気持ち、熱い涙、実写版に求められる演技力
友情、挫折、奮起。『ごくせん』や『ROOKIES』といった青春ドラマから『働きマン』や『バンビ~ノ』といったお仕事ドラマまで、熱い気持ちを描いた作品が多いマンガ原作ドラマ。 『今日から俺は!!』でも、三橋や伊藤、今井勝俊(太賀)や赤坂理子(清野菜名)たちの友情や、殴られても立ちあがる熱い気持ちは、胸を打つ。泣いたり笑ったり心が大きく動く「ドラマチック」を「マンガチック」にしないところには俳優陣の力量が光る。熱さにおける『今日から俺は!!』の出来栄え点はほぼ満点だ。
マンガ作品の取材力は圧巻
社会が複雑になり、専門性が高まる現代は、インターネットを背景に、その専門的内容を誰もが共有する時代でもある。つまりドラマの中で少しでも手抜き感がでると、すぐに視聴者に伝わってしまう。そんな中、現代においてマンガ原作の取材力は群を抜いているといっていい。
音楽大学やオーケストラの世界を表現した『のだめカンタービレ』や、調理器具の音、オーダーを入れる声、調理場の躍動感が素晴らしかった『バンビ~ノ』も、徹底的な専門性を追求したからこそのおもしろさ。
『今日から俺は!!』もヤンキーの時代性を冷静に深掘りする視点がある。何より彼らのツッパリが、他人に対する騒動ではなく、自分自身に向けられた哲学からくるツッパリであるところがいい。パソコンがなかった時代風タイトル文字から当時の制服事情まで、そのこだわりが作品を盛り上げている。
すごいものをつくろうという意気込みではなく、楽しいものをつくろうとする気持ちが生んだ痛快作『今日から俺は!!』は、古めかしいようで新しい。ドラマを観てマンガに興味を持つ人もいるだろう。実写版はドラマ界をまだまだおもしろくするはずだ。