離婚できなかった親への思い

不仲な両親のもとで育つことが子どもにどのくらい影響するのか、本当のところはわからない。そういう環境で育ったとしても、人それぞれいろいろな考え方があるからだ。

「今になってみると、離婚できなかった母の気持ちもわかります。私自身も似たような境遇にいるから」
サリナさん(47歳)は苦笑しながらそう言った。3歳年上の夫と結婚して17年。高校生と中学生の子どもがいる。夫とはほとんど会話がない。家の中を、自分が育ったような険悪な雰囲気にはしたくないので、あえて夫に話しかけたりもするが、期待するような温かい言葉は返ってこない。

「夫はあまりコミュニケーションをとるのがうまくないんです。機械相手のエンジニアになったのも、人と話すのが苦手だからと聞いたことがある。子どもたちも、おとうさんは変わった人だと思っているようですね。どうしても離婚したいわけではないけど、夫とふたりだけの時間は過ごしたくないのが本音です」

子どもたちのことを考えると、もちろん離婚するつもりはない。そこはどうしても自分の母と思いが重なるとサリナさんは言う。

「うちの両親は本当に仲が悪くて、いつも冷戦状態。険悪な雰囲気が家庭に漂っている。そしてときどき大げんか。父が怒鳴りまくって母が泣き叫んで。ケンカするほど仲がいいなんて嘘ですよ。ひとりっ子の私は行き場がなかった。小学校2年生のときに、母に『離婚すれば?』と言った記憶があります。母は『あなたのために離婚はできない』と。私がいるから母は自分の人生を歩めないんだと思い込みました。それはつらかった」

彼女が大学を出て就職したその年、父は急死した。以来、母はひとり暮らしを満喫している。なんだかんだ言って、離婚せずにいちばんトクしたのは母ではないかと彼女は思っているそうだ。
 

離婚できないつらさもある

「離婚したいけれど今はできない。いつか、子どもが成長したら離婚を切りだすのが私の夢となっています」
そう思いながら日々、がんばっているというのはサトミさん(44歳)だ。結婚して12年、10歳になる双子の女の子がいる。

「子どもはかわいいもの。この子たちのためなら私の我慢なんて我慢に入らない。夫は経済力として必要なんです。だから私は夫に尽くしています」

5歳年上の夫は、もともと自分勝手な男性だ。つきあっているときや新婚時代は、その夫の勝手さをかわいいと思ったこともあった。自分が支えているから、この人は好き勝手なことができるのだと。子どもが産まれてすぐに夫が会社を辞め、友人と起業したときもサトミさんは夫を励まし続けた。

「3年ほどで起業した会社が軌道に乗ると、今度は夫が調子に乗って。家庭に入れてくれる生活費は倍増しましたが、夫には女性の影がちらちらするようになりました。でも私は何も言わなかった。彼が家庭を壊そうとしない限りは黙っていようと決めたんです」

夫がどんなに遅くなっても、彼女は起きて待っている。小腹がすいたと言われれば、すぐにお茶漬けを出せるように。そうやって「尽くす妻」をやっている限り、夫は金を惜しまないから、彼女はそのお金をせっせと貯金に回している。いつかひとりになる日のために。

「先のことなんてわかりませんからね。離婚したって幸せになれるとは限らない。離婚した友人たちはみんなお金で苦労している。そんなことなら、夫の扱いで苦労しても同じじゃないですか。もし夫に経済力がなくなったら、私は娘たちと逃げるつもりでいます」

夫はATMみたいなものだから。そう言ったサトミさんの顔は、どこか寂しげでもあった。