遅きに失した監督交代

日本サッカー協会で9日に開かれた記者会見には、田嶋幸三会長がひとりで出席した。そこに、代表監督を評価する立場にある同協会技術委員長の西野朗氏はいない。
 

その意味はすぐに明らかになる。解任されたハリルホジッチ監督の後任が、西野技術委員長だったからだ。田嶋会長は新監督が12日に会見を開くとし、ハリルホジッチ監督の解任への経緯を説明していった。
 

田嶋氏
田嶋幸三会長がハリルホジッチ監督の解任を発表した(写真:AP/アフロ)

ロシアW杯の初戦は6月19日だ。2か月前のタイミングで監督を交代することについて、田嶋会長は「W杯で勝つ可能性を1パーセントでも2パーセントでもあげるため」と説明し、自らの責任についても同じ説明で退けた。
 

「このままむざむざと見ているわけにはいかなかった」とも話したが、解任のタイミングが何度もありながらここまで決断を先送りした事実は変わらない。かりにW杯で上位進出を果たすことができたとしても、田嶋会長は今回のドタバタ劇の責任を問われなければならないはずだ。
 

新監督は「武器」を捨てずに戦う

いずれにせよ、気になるのは日本代表の今後だろう。具体的には、西野新監督のもとでチームはどのように変わるのか、である。
 

西野新監督の実績で輝かしいのは、1996年のアトランタ五輪だろう。前園真聖、川口能活、城彰二、中田英寿ら個性派揃いのチームを率い、サッカー王国ブラジルを1-0で撃破したのだ。試合が行われた都市名にちなんで、“マイアミの奇跡”と呼ばれる一戦である。
 

西野朗
新監督には、JFAの技術委員長を務めてきた西野朗氏が就任することに(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

Jリーグのクラブの監督としては、99年に柏レイソルでリーグカップ制覇を成し遂げた。2005年にはガンバ大阪の指揮官としてJ1リーグ優勝を成し遂げ、08年にはアジアナンバー1のクラブを決めるチャンピオンズリーグ優勝を飾った。J1リーグ通算270勝は、歴代最多である。
 

ただ、15年シーズンを最後に監督業から離れていた。16年3月から技術委員長として日本代表チームに帯同してきたものの、監督としては2年以上のブランクがある。相手チームの監督と駆け引きをしつつ、スピーディかつ適切な決断をしていく感覚を、どこまで取り戻せるのかは不透明だ。
 

西野監督に求められる「理想と現実のバランス」

チーム作りの方向性は大幅に変わるだろう。
 

ハリルホジッチ前監督はタテに速いサッカーを志向し、ボールの奪い合いで譲らない「デュエル」を選手たちに求めた。しかし、タテに速いサッカーでは選手同士が近い位置でプレーすることが難しく、日本人選手が得意とする連携プレーが成立しにくい。デュエルについては世界のトレンドではあるものの、長身で骨太の選手にも負けるな、というのはそもそも無理がある。
 

ハリルホジッチ氏
マリ戦で、ピッチにいる選手に向けて指示するハリルホジッチ監督(写真:アフロ)

大げさな表現を使えば、自分たちの武器を捨てて戦いに挑むのが、ハリルホジッチ前監督のサッカーだった。田嶋会長が「西野監督には日本らしいサッカーをやってほしい」との期待を口にしたのも、日本人選手の良さが表現されていなかったからに他ならない。
 

一方で、4年前のブラジルW杯の教訓もある。日本人選手の特徴を生かしたショートパス主体のサッカーで挑んだものの、1分2敗でグループリーグ敗退に終わったのだった。
 

西野監督に求められるのは、理想と現実のバランスを整えることだろう。日本人選手の良さを生かしつつ、相手の良さを消すことも考えていくのだ。「ぶつかり合いで負けるな」ではなく、「ぶつかり合わずに相手を攻略しよう」といった考え方や、相手との力関係を考えた守備重視の戦略があってもいいだろう。
 

W杯のグループリーグで対戦するコロンビア、セネガル、ポーランドとの比較では、日本は格下の立場だ。そこから出発して勝利へのシナリオを構築することが、「W杯で勝つ可能性を1パーセントでもあげる」ための第一歩なのである。