クスっと笑い、ほろっと泣く!なぜ『アンナチュラル』は心地よい?

不自然な死を究明する民間機関UDIラボを舞台に、法医学とは何かに迫る『アンナチュラル』。録画して何度も見てしまう魅力にあふれたドラマは幅広い世代に支持され、その面白さから目が離せません。

TBSの人気作品『逃げるは恥だが役に立つ』『空飛ぶ広報室』の脚本家・野木亜希子と、『Nのために』『リバース』のスタッフによる金曜ドラマ『アンナチュラル』。私たちの想いをはるかに超えて、胸にグイグイと響くほろ泣き続きの傑作です。泣けるのに「もっと見たい」と思わせるのは、脚本・演出・俳優陣の実力がそろっているからこそ。その魅力を考えます。
 

際だつ「ワケアリ」の描き方

ドラマの登場人物たちは基本的に「ワケアリ」。何かを抱えている→誰かと出会ったり、何かを経験したりして心が動き始める→やがて自分なりの答えを見つけ、出発する……なんて展開も多いものですが、その「ワケ」が浅いと物語そのものにチープ感が漂い、心にグッと響きません。野木亜希子は「ワケアリ」へのアプローチが特別なのです。
 

石原さとみ演じる主人公の法医解剖医・三澄ミコトは実の家族を失っている。井浦新演じる同じく法医解剖医の中堂系も大切な女性を失っている。しかし、描く視点は「自己成長」や「自己再生」にフォーカスされず、他者に向かう大人としての姿をとらえます。だからこそ、米津玄師が歌う主題歌『Lemon』に昏さや苦さを感じ、涙がほろっとこぼれるのでしょう。
 

寄り添いたくなる働くリアル

監察医を描いた『きらきらひかる』(フジテレビ系)でも、よく食べよく喋る女性の働く姿が印象的でした。あれから20年、科学の進歩はめざましく「発見」に対する理系的ワクワクは大きく進化。解剖台や解剖用具、それを洗う手はさらにリアリティーを増し、働く姿は鮮明です。
 

ミコトと市川実日子演じる同僚の臨床検査技師の東海林夕子が、お互いを「友だちじゃない」と言い放つシーン(第6話)にはドキッとしました。彼女たちのプロ意識、ガス抜きの巧さ、デスクのスイーツ、休日の職場の雰囲気(第5話)など、クスっと笑える「あるある」からちょっとした毒や自己嫌悪まで、働く私たちが引き寄せられる要因が見事に散りばめられ、愛しさすら感じます。
 

久部六郎の視点に癒される

第5話では、被害者の婚約者が加害者となる切なさと、未遂で終わり「素人はダメだ」こぼす中堂(第5話)の言葉など、人間の中にある濁った想いに背を向けることなく残酷な現実を描く『アンナチュラル』。それでも、時おり甘酸っぱさが感じられ、そこに、窪田正孝の巧さが光ります。ワケアリの彼が、ワケアリの人物たちを見守る視点は迷いと後ろめたさを交えながらも、純粋な想いから。
 

感情を爆発させる。感情を押し殺す。エッジが効いた演技を見せる俳優は多いものの、心の激しい動きの間に存在する小さな揺れを小さいまま見せてくれる俳優は希少です。演技にミュートを利かせ小さな揺れを浮上させる。言葉にしない、表情を変えない、でもちゃんと伝わってくる久部くんのドキドキ、その甘酸っぱさにぜひ注目してください。
 

専門性が生きる謎解き

理系の方や男性視聴者の好奇心を満たす、専門性が生きた”謎解き”も見応え十分。第3話で圧巻の作戦に出たミコトと中堂の珍プレーのほか、院内感染(第1話)、仮想通貨のトラブル(第6話)といった旬の話題など、入念な努力による巧みな仕掛けは圧巻で、働く女子ではない視聴者も楽しめる内容も見逃せません。
 

いよいよクライマックスへ

登場人物たちは内向きな性格でも、正論を振りかざすわけでもない、つまり、「感情と社会性を持った存在」であるところに『アンナチュラル』の心地よさがあります。主人公が「こんな自分になりたい」と願い、「夢をかなえる」というテレビドラマでありがちなストーリーではなく、「今できることをする。それはきっと未来を開くことになる」という等身大な人物や物語を描いているからこそ、『アンナチュラル』という作品が伝えるメッセージは力強く、清々しい。
 

最終回に号泣するのか、感泣するのか。物語はいよいよ後半です。薬師丸ひろ子、北村有起哉が演じる役のワケアリも気になる『アンナチュラル』ますます夢中になりそうです。

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