東京オートサロンに登場した「ピンクのランクル」 その正体とは?

1月12日から14日まで、幕張メッセで日本が誇る世界最大級のカスタムカーイベント『東京オートサロン・2018』が開催されました。その会場に、ピンクに塗られた古いランドクルーザーが私の目にとまりました。その正体は、約60年前にアメリカ大陸を縦断した

東京オートサロン2018に現れた、異質なピンクのランドクルーザー

トヨタ

1月12日から14日まで、幕張メッセで『東京オートサロン・2018』が開催されました。日本が誇る世界最大級のカスタムカーイベントということもあり、チューニングやドレスアップされた車がたくさん展示され、会場は賑わいました。そんな会場に、ピンクに塗られた古いランドクルーザーが私の目にとまりました。ピカピカに磨きあげられたボディの車両が並んでいる中、ボディの凹みが目立つそのランドクルーザーは、異質な存在でした。

昭和35年、アラスカからチリまで夢を乗せて走った

地球縦断「さくら」と書かれたピンクのランドクルーザーは、なんと、昭和35(1960)年にアメリカ・アラスカ州フェアバンクスからチリ・プエルトモントまで走破した実物のランドクルーザーでした。『さくら』という名前にちなんで、当時もピンク色に塗られていたそうです。総走行距離32,212km、117日間に及ぶ無謀ともいえる挑戦は、世界で初めてアメリカ大陸縦断ドライブを無事故で走破したという記録も残していました。私の愛車ランドクルーザー76の先祖にあたる、このピンクのランクルが経験してきたエピソードを聞いたとき、目頭が熱くなってしまいました。
 

このランドクルーザーは長らく河北新報社の社内倉庫に眠っていたのですが、多くの人の思いに後押しされ、2018年の東京オートサロンで再び私達の前に姿を見せてくれました。

ランクル20系
ランドクルーザー20系。初めてランドクルーザーの名前が付いたモデル

型式:FJ28VA(ベース車)
全長:4,365mm/全幅:1,690mm/全高:1,860mm/ホイールベース:2,430mm/トレッド:前・1,390mm 後・1,350mm/最低地上高:210mm/車輛重量:1,800kg
 

アメリカ大陸縦断にかける思い

縦断
アメリカ・アラスカ州フェアバンクス~チリ・プエルトモントを走破した

1955年頃に、ランドクルーザーは国内で民間用として乗られるようになっだけではなく、海外へも輸出されるようになりました。壊れにくく、どんな悪路でも走行可能なランドクルーザーはアメリカで多く愛用されるようになり、日本のメーカー『トヨタ』の車は丈夫だという信頼性が浸透していきました。

連邦自動車登録ステッカー
当時の連邦自動車登録のステッカー

アラスカからチリまでの縦断を決めたのは、まだ誰も走行した事のない距離を走り『信頼性』を世界に証明したかったからと言えるでしょう。

小幡憲司さん
レストアに携わった『小幡憲司さん』。インタビューしていても、ランクルに対する熱い気持ちが伝わってきました。

また、当時のエンジニア達が、どこまで自分達の技術が通用するのか確かめたかったからかもしれません。いずれにせよ、アメリカ大陸縦断という記録を作るだけではなく、夢を乗せて走ったのだと思います。
 

過酷な走行を物語る傷跡……

ボディの左後ろに大きな凹みがあります。これは、恐らく縦断中に大きな木にぶつかった痕ではないかと推測されています。他にも車内は傷だらけ、現代のようにアスファルトで綺麗に舗装された道はほとんどなく過酷なルートを走行したことが分かります。

当時の色を再現しオールペイントを施したボディ
当時の色を再現しオールペイントを施したボディ。でも、当時のエピソードはそのままに

ハンドル部分が下がっているのは、ドライバーが降り飛ばされないように必死にしがみついたことが予想されます。

ステアリングコラムが下がっていた
ハンドルにしがみつき悪路を運転し続けたドライバーたち。いつのまにかステアリングコラムが下がっていた様子からその激しさが伝わって来ます

また、シートには黒い染みがついていたそうです。これは血液ではないかということでした。まさに、生死を掛けてアメリカ大陸縦断に挑んだのです。
 

昭和35年から、時を越えて現代へ

アメリカ大陸縦断という目的を達成したランドクルーザーはその後、河北新報社の駐車場で永い眠りについていました。しかし、このランドクルーザーの存在をたくさんの方に知ってもらいたいという声が挙がり、昭和35年に走っていたランドクルーザーを現代で走らせる「復活プロジェクト」が2017年から始まりました。
 

河北新報社の駐車場で眠っていたランドクルーザーは、この二人のメカニックによってレストアされました。
 

ボディの復元を担当したのは千田達也さん。

千田達也さん
千田さんは、ボディなどの部品を外し、錆を丁寧に落としていく作業などを行ったそうです
レストア
車内はあえて塗り直さず、錆が進行しないように処理をし、キズは残したそうです。ピカピカに仕上げるだけがレストアではない、ヒストリーを残すレストアだと感じました

こだわったのは、命懸けの走行である事を物語っているボディの傷を、あえて残したことだそうです。走行中についた傷にこそ、価値があると思ったそうです。

セマフォー
見かけることのなくなったセマフォー。入手困難な為、当時の写真を参考にして、一から型を起こして作り直したそうです

制動系とエンジンなど駆動系と、セマフォー復元などは小幡憲司さんが担当しました。年月による腐食や固着のほかに、何度も修理していた形跡が見られ、幾度となくあるトラブルに対応しつつ走行していたんだなと感動したそうです。

インテリア
インテリアはフルオリジナルで当時のまま。フロントスクリーンにはどんな風景が映っていたのだろうか

昭和35年に世界を横断したランドクルーザーがまた走り出す。それは、トヨタ車の車は丈夫だという事を、今一度証明することになったのではないでしょうか。何十年前にランドクルーザーを作ったメカニックの技術の高さ、それを復元した現代のメカニックの技術。チューニングやドレスアップされた車が並ぶオートサロンで、ピンクのランドクルーザーがそれを物語っているのです。

ピンクのランクル
一度、私の愛車であるランドクルーザー76と、ピンクのランドクルーザーを会わせてあげたいと思います。

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