愛称はGSE、コンセプトは「優雅な」観光列車
2018年3月中旬にデビューする小田急ロマンスカーの新型車両70000形のお披露目会が、12月5日、小田急の相模大野駅(神奈川県相模原市)近くの車輛基地で行われた。
多くの報道陣が見守る中、車庫から姿を現したのは、バラの色を基調とした「ローズバーミリオン」、屋根のあたりはダークレッドの「ルージュボルドー」、サイドはロマンスカーの伝統カラーである「バーミリオンオレンジ」のストライプという具合にレッド系でまとめた「赤いロマンスカー」である。
小田急の歴代ロマンスカーには、それぞれNSE、LSE、VSE、MSEといった愛称が付けられているが、70000形の愛称はGSEであることも公表された。GSEとは、Graceful Super Express。70000形の開発コンセプトである「箱根につづく時間(とき)を優雅に走るロマンスカー」をもとに「優雅な」という英語のGracefulを使い、GSEと略すのである。
「優雅さ」は車内のいたるところに!
では、「優雅さ」は、どんなところに現われているのだろうか?
■前面展望はより迫力があるものに
まずは、小田急ロマンスカーのウリである前面展望に関して、より眺望が楽しめるよう工夫されていることだ。前面の展望窓の高さを「白いロマンスカー」ことVSEより30cm上げ、一層広がりのある展望が楽しめるようになった。最前部に16席ある展望席も、VSEに比べ、さらに35cm前に配置し、より迫力ある展望がかぶりつきで眺められるようにしている。サイドの窓についても、前面の展望窓と同様、30cm上げ、車窓がますます楽しめるようになるだろう。
■窓は大きく、荷棚もなくす?
窓を大きくすることにより、車内は明るくなった。
また、先頭車となる1号車と7号車は、荷棚をなくし、そのため、圧迫感のない、広々とした空間を確保でき、それが優雅な移動時間となる。荷棚をなくした代わりに、航空機の機内持ち込みができるサイズの鞄については座席下に保管スペースを確保し、また車端部に荷物置き場を設けることにより、巨大なスーツケースを利用する海外からの観光客の要望に対応できるようになった。
荷棚に重い荷物を上げることは、力のない女性や高齢者にとっては苦痛だから、こうした方策は外国人のみならず、多くの旅行者に喜ばれるであろう。手荷物にかかわる苦痛から解放されれば、旅はより楽しく、優雅なひとときが訪れる。
■シートは高級感ある材質に。コンセントやWi-Fiも装備
さらに、シートも通常の分厚いものではなく、薄くて高級感のある材質を使っているので、快適性はもちろんのこと、車内空間をより広く見せる効果もあり、これもゆったりと優雅に過ごせるよう工夫であろう。
GSEは、箱根への観光列車としてのみならず、通勤特急としての使用も考慮している。したがって、すべての座席にコンセントを装備し、車内専用Wi-Fiサービスもある。Wi-Fiに関しては、英語、フランス語、のみならずアジアのいくつもの言語にも対応できるコンテンツを配信できるようにしている。日本の列車の車内設備に関しては、外国人から不満の声も多々挙がっているだけに、時流に即した対応である。
「予約が取りにくいロマンスカー」、状況は改善へ
「優雅さ」は、車内での過ごし方だけではなく、ロマンスカーの主たる目的地である箱根での滞在時間にもいえる。3月中旬の複々線化完成によるダイヤ改正によりロマンスカーのスピードアップや本数増加が可能になったおかげで、待望の新宿~小田原間の所要時間が、最速で1時間を切り初めて59分となる。さらに、箱根湯本発の最終ロマンスカーの時刻が繰り下がり、以上から、箱根での滞在時間が、より長く、ゆったりと優雅に過ごせるようになる。
一時期、ロマンスカーの利用者数が低迷したが、「白いロマンスカー」VSE登場で、復調傾向となり、なかなか予約が取れない列車となっている。こうした状況を少しでも改善し、より優雅に旅を楽しむことのできる鉄道車両としてGSEは登場したのだ。近年の観光列車ブームは、小田急ロマンスカーにも影響を与え、またひとつ「優雅な」車両が旅の選択肢に加わった。「白」「青」に続く「赤いロマンスカー」の活躍が早くも楽しみである。
取材協力=小田急電鉄