仮病で会社を休むと犯罪になるのか
朝目覚めて「今日会社行きたくないな~」と思い、会社に「風邪ひきました」「熱が下がらない」と嘘をついて休んだことがある人もいるかもしれません。会社に嘘をついたことになりますが、これは犯罪になるのでしょうか?
考えられる犯罪その1 詐欺罪
会社に嘘をついているわけですから、詐欺罪(刑法246条)にあたる可能性を考える必要があります。しかし、詐欺罪が成立するためには、嘘をついて、財産的価値のある物または利益を得る必要があります。したがって、会社に嘘をついているものの、それによって物をもらうわけでも利益を得るわけでもありませんので、詐欺罪には該当しません。
嘘をついて給料を得たことにはならないの?と感じるかもしれませんが、通常、病気によるお休み(欠勤)がある場合、給料は支給されません(欠勤控除)。したがって、嘘をついて給料をもらっていることにはなりません。
嘘の理由で有給休暇を取ってしまった場合は?
では、嘘の理由で有給休暇を取ってしまった場合どうなるのでしょうか。有給の場合、給料が支給されますので詐欺罪になるのでしょうか。
これについては意見が若干分かれるのかもしれませんが、私は詐欺罪にならないと考えます。
そもそも、有給休暇は従業員の権利であり、理由があってもなくても有給で休むことができます。したがって、有給休暇の取得理由にかかわりなく、従業員が取得を求めるのであれば、会社は原則として休ませなければなりません。したがって、嘘の理由で騙されて休ませてしまったということにならない以上、詐欺罪にならないと考えられます。
考えられる犯罪その2 偽計業務妨害罪
次に考えられるのは、偽計業務妨害罪(刑法233条)です。「偽計(人をあざむくこと)を用いて業務を妨害する場合」に犯罪になります。
確かに休むことで、その従業員が出勤しないわけですから、会社の業務が停滞したので妨害されたといえるようにも思われますが、私は、特別な事情がない限り偽計業務妨害罪にはならないと考えます。本当に病気で休むことは許されるわけですし、会社の側からみても、従業員がどのような理由であれ休むことは一定程度想定されているわけですので、業務が妨害されたと考えるのは、あまりに不自然だからです。
「仮病で休む」ことは犯罪ではなくても避けるべき理由
■会社が解雇したいと考える根拠になる
従業員は、法的には「労働者」です。労働者は、会社に対して、労働する義務を負っており、その義務を尽くすことの対価として給料をもらいます。法律上、労働者が働く義務は最も重要かつ基本的な義務です。したがって、この義務を果たさない場合、会社としては、契約を解消したいと考えるわけです。
この会社側からの契約の解消が「解雇」です。会社の解雇権限は、制限されていますが、とはいえ、仮病で会社休むというのは、労働者にとってはかなりの減点事由といえます(有給休暇の場合は別ですが、とはいえ、嘘をついたという点ではやはり減点事由です)。
■会社には「職場秩序の維持」をするために権限がある
その他にも、会社は、職場秩序維持の観点から労働者に懲戒する権限を持っています。仮病で会社を休むことを許していては、他の労働者に示しがつきません。つまり適切な職場秩序を維持できません。したがって、会社は、職場秩序を維持するために労働者を懲戒しようと考えるでしょう。懲戒処分には、けん責、出勤停止、減給、懲戒解雇等色々と種類があります。
一度仮病で休んだくらいで直ちに解雇や懲戒処分を受けるわけではないでしょう。しかし、上司から当然お叱りを受けるでしょうし、社会人としての信頼も失ってしまいます。そうした観点からも、「仮病で休む」こと犯罪にはならなくとも絶対に避けるべきだと思います。