あおり運転という法律上の概念はない
最近、東名高速で発生した死傷事故をきっかけにして、あおり運転について世間の注目を集めるようになりました。そこで、今回は、あおり運転に関して法的側面からコメントします。
一般的にあおり運転というのは、後続の車両が前方の車両に対して、接近して走行する、パッシングする、ハイビームにする、クラクションを鳴らす等して「あおる」運転、という程度の意味で理解されています。しかし、法律上「あおり運転」という概念はありません。
あおり運転は道路交通法に違反する
あおり運転をした側はどのような法律に違反しているのでしょうか。
後続車両は、前方車両がある場合、前方車両が急停止しても追突しない程度の距離を確保して走行しないといけません(道路交通法26条)。あおり運転はまさにこれに違反します。高速道路での違反ですと懲役3か月以下又は5万円以下の罰金、一般道ですと5万円以下の罰金という刑罰の対象になります。
また、前方車両の直後を走行する際にハイビームのままにしている場合も道路交通法52条2項違反で、5万円以下の罰金ですし、危険防止のためにやむを得ないときでないのにクラクションを鳴らすのも道路交通法54条2項違反であり2万円以下の罰金又は科料となります。
危険運転致死傷罪に問われる場合も
東名高速の事故では、加害者は、危険運転致死傷罪で起訴されました。
危険運転致死傷罪というのは、一定の危険な態様で自動車を運転したり走行させたりした場合で、人を死傷させることに対して処罰される犯罪です。様々な走行態様が法律で列挙されているのですが、そのなかに「人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」(自動車運転死傷行為処罰法2条4号)という規定があります。
東名高速の事故では、報道によると、加害者が被害者の車両の前方に割り込んだそうなので、検察官は、これらの運転行為が先ほど指摘した規定に該当すると判断し、起訴したのではないかと思われます。
あおり運転=危険運転致死傷罪というわけでは決してありませんが、法律で規定する行為に該当し人を死傷させると、危険運転致死傷罪で処罰され(負傷の場合は懲役15年以下、死亡の場合は1年以上20年以下の懲役)、危険運転致死傷罪に該当しなくとも、過失があれば、過失運転致死傷罪で処罰されます(7年以下の懲役若しくは禁錮、又は100万円以下の罰金)。
以上のほか、民事上の責任として、被害者や遺族から損害賠償請求を受けることもあります。
あおられた側も要注意!加害者と立場が逆転する場合も…
あおられた側も注意しなければいけないことがあります。
例えば、後方からあおられた場合に、逃げたり振り切ろうとしてスピードを上げることがあるかもしれません。この場合、制限速度を超過していればいわゆるスピード違反であり道路交通法に反します(22条1項)。あおられているからといって法律に違反するのは原則として許されません。
また、例えば、あおられた上、停車を強いられて、加害者が暴力を振るってきたため、怖くなって車両を急発進させたら加害者が負傷した、場合によっては死亡したという事件に発展することがあります。このような場合、事案によりますが、殺人、殺人未遂、傷害致死、傷害、過失致死等の犯罪が成立してしまう可能性があります。正当防衛等が成立することもありますが、とはいえ、刑事事件になってしまうこと自体、極めて大きい負担を強いられますので、このような事態にならないようにすることこそが絶対に大事です。
あおられた場合の対処法は?
あおられた側が加害者の立場になる可能性もあるということが分かった上で、万が一「あおり運転」に巻き込まれてしまったら、どのように対処するのが適切なのでしょうか。対策は大きく3つあります。
1、自分自身が道路交通法等の法律を守る
まずは、自分自身が道路交通法等の法律を守ることです。例えば急ブレーキをかけてびっくりさせてやるといった対応もすべきではありません。これにより事故が発生すれば、被害者側にも相応の責任が問われます。
2、加害者を相手にしない
次に、加害者を相手にしないことです。停車してしまったとしても、ドアをロックして、窓を開けなければ、よほどの事情がない限り加害者と直接接触しないで済みます。
3、警察に連絡すること
そして、警察に連絡することは必須です。可能であればスマホ等で相手を撮影しても良いと思います(運転中にスマホ等を操作するのは法律違反になるので、同乗者に対応してもらうか、停車した際に対応してください)。ドライブレコーダーを自動車に搭載しておくのも選択肢の一つです。