投票率はなぜ低下した?歯止めをかけるために必要な2つの要素

10月22日投票の衆議院議員選挙は、与党と再編野党の勝敗が当然焦点ではありますが、もうひとつ気になることがあります。それは投票率がどうなるかという問題です。歯止めをかけるためには何が必要なのでしょうか。過去の投票率の推移から分析しました。

衆院選では2回連続で史上最低の投票率を記録…

10月22日投票の衆議院議員選挙は、与党と再編野党の勝敗が当然焦点ではありますが、もうひとつ気になることがあります。それは投票率がどうなるかという問題です。
 

約10年単位で下降線を辿ってきた衆議院選挙の投票率は、前々回59.32%、前回52.66%と2回連続で史上最低を記録し、このままではいよいよ50%をも割り込もうかという急降下状態にあります。有権者の約半数が権利放棄をしていることは、実に由々しき問題です。
 

衆院選の投票率を振り返る!戦後~平成初期はは65%以上

まず衆院選投票率を歴史的に振り返ってみます。女性参政権が実現し、現在の選挙制度になった昭和21年から平成5年の総選挙までは、多少の上下はありながら65%以上を維持していました。
 


 

新党ブームで高投票率→失望感から低迷

59%台と初めて60%を割り込んだのが平成8年。その前回の同5年の選挙が67%台の高投票率で、いわゆる新党ブームに乗って選挙後に細川護熙氏率いる日本新党を中心とした非自民政権が成立し、55年体制が崩壊した選挙でもあるのが注目に値します。
 

細川政権は内閣支持率が70%を超える空前の国民支持を取り付けたものの、連立内紛により1年に満たない短命政権に終わり、わずか2ケ月の新生党政権から自さ社連立から自民党政権に逆戻り。すなわち平成8年の投票率低下は、大きな期待感が失望感に変わったものと受け止められます。そしてその後は、投票率が低迷を続けることになるのです。
 

「郵政解散」の時は投票率が高かった

近年でかろうじて投票率を上げているのが、平成17年の小泉政権における郵政選挙の67%台と、続く21年の民主党政権への政権交代を果たした21年の69%台です。前者は高い支持率に支えられた安定政権下であったこと、21年は1年ごと目まぐるしく首相交代した自民党政権に嫌気して政権交代への期待感が高まっていたことが特徴として挙げられます。
 

期待感?為政者の“求心力”の関係

投票率と為政者の求心力との間には、正の相関関係があるように思えます。終戦から高度成長期を経て平成初頭のバブル経済の崩壊までは、自民党政権の下で長期的には右肩上がりの経済状況を背景として、「国民所得倍増計画」に代表されるように、提示されたビジョン実現という期待感を持たせてくれた時期にあったと言えます。
 

しかし、低成長期に入って政権に実現可能なビジョンが感じられなくなり、旧体制を打破してくれそうな新勢力のビジョンへの期待感が、新党ブームに乗った平成5年の高投票率に現れたのではないのかと。
 

同じように、「自民党をぶっ壊す」をスローガン的に掲げ安定政権を築いた小泉内閣には、やはり旧体制打破というビジョンとその実現に向けた期待感を十分に感じさせるものであり、さらに民主党への期待感を込めた政権交代は国の新たなビジョン実現を信じた国民たちの意思表示であったのです。
 

投票率を押し上げるのは「ビジョン」と「実現可能性」

こうしてみてくると、投票率を押し上げてきたものは国の運営に関する明確なビジョンの存在とその実現可能性ではないかと思えます。例え、ビジョンらしきものが存在しても、実現性の実感がなければ求心力にはつながりません。55年体制以降の自民党長期政権時に高投票率が継続できた背景には、高度成長に支えられた経済状況と長期安定政権に対する信頼感、期待感があったからに他なりません。小泉政権下での高投票率も、政権に安定感があってこそ旧体制打破実現への期待感が高まり大きな支持を集めたのだと思われます。
 

政治におけるビジョンの明確提示とその実現性実感の重要性は、企業マネジメントにおいてビジョンが組織内モチベーションの高揚に与える影響と全く同じです。組織においてはリーダーの明確なビジョン提示とその実現性実感がリーダーに対する支持と帰属意識を高めます。政治の場に置き換えても、支持政党への投票モチベーションを刺激し投票率を押し上げるものは、政党のビジョンの明確さとその実現性の実感であると言えるのです。
 

果たして投票率が上がるのか?

政権交代ビジョンへの支持により21年の衆院選で政権を握った民主党でしたが、そのビジョン実現力欠如は国民に大きな失望感を与え、再政権交代となります。そしてここ2回の衆院選の投票率は壊滅的に大きく下がってしまいました。ここで重要なことは、ここ2回の自民党の勝利要因の大半は、決してそのビジョンへの国民の支持ではなく、野党の自滅状況を受けた対野党比較優位という消極的支持理由であろうということなのです。
 

新党結成、野党再編等で話題に事欠かない今回の衆院選ですが、果たして投票率が上がるのかと言えば、そこに大きな期待はできないだろうと思えてきます。なぜならば、今回もまた比較優位での政党支持理由以外に、強く「投票へ行こう」と動機付けされるような明確なビジョンを持つ政党やリーダーが見当たらないからです。
 

各政党はこの投票率低下の現状をどう考えているのでしょう。各党ともポピュリズム的な票集めにばかり走るのではなく、下がり続ける投票率の責任は自身の問題であると受け止めて、政党としてのあり方を一から見直すべき段階に来ているのではないかと思います。

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