1人一票は「一票」にあらず?一票の格差問題とは

国政選挙が実施されるとほどなくして選挙無効訴訟が日本全国で提起されるが通例となっています。選挙無効訴訟では、いわゆる一票の格差が問題とされるのですが、この一票の格差というのはどのような問題があるのでしょうか。

選挙無効?「一票の格差」問題とは?

10月10日に衆議院議員総選挙が告示されました。国政選挙が実施されるとほどなくして選挙無効訴訟が日本全国で提起されるが通例となっています。選挙無効訴訟では、いわゆる一票の格差が問題とされるのですが、この一票の格差というのはどのような問題があるのでしょうか(なお、以下は衆議院議員選挙の問題についてコメントしています)。
 

どんなときに「一票の格差」は生じる?

例えば、定員1名のA選挙区は有権者数100万人、同じくB選挙区は有権者数20万人だとします。そうすると、議員が当選するためにはA選挙区は、B選挙区よりも多数の票が必要になります。

1票の格差
このような状態を“投票格差は5倍”

単純に有権者数の比率でいえば、5:1ですから、A選挙区ではB選挙区より5倍の票を得ないと当選できないことになります。これを有権者の側からみると、A選挙区の一票は、B選挙区の一票の5分の1しか価値がないことになります。このような状態を“投票格差は5倍”などといいます。
 

そもそも、選挙権は、民主主義国家で最も基本的な権利です。しかし、一票を投じる権利が認められたとしても、その効果がこの例のように他の選挙区と比べて5分の1に減ってしまうのは問題ではないかということになります。
 

憲法の「法の下の平等」に反する

憲法14条1項は「すべて国民は、法の下に平等であって……政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と規定しています。これを法の下の平等とか平等原則といいます。一票の格差は、この平等原則に違反しているのではないか、したがって、一票に格差のある状態で実施された選挙は憲法違反ではないか、という問題が提起されるようになります。これが一票の格差の問題です。そして、この問題が裁判で審理されるのが選挙無効訴訟です。
 

人口比例に合わせたとしても偏る場合も……

憲法学者のなかでは、一票の格差が2倍を超えるのはダメといった考えが多数のようです。というのは、2倍を超える格差を認めると、最も投票価値が低い選挙区の有権者の1票と、最も高い選挙区の有権者のそれを比べると、最も投票価値の低い選挙区の1票が「1票」分の価値もないということになってしまうからだと思われます。このことは、衆議院小選挙区の改定を行うにあたり、改定案を首相に勧告する審議会が「各選挙区の人口のうち、その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が二以上とならないようにする」改定案を勧告するよう規定されていることからも分かります(衆議院議員選挙区確定審議会設置法3条1項)。
 

ただし、投票価値は完全に等しくというのが絶対のルールではありません。これが絶対であれば、選挙区を全て撤廃し、全国1選挙区として議員を選出すればよいのですが、そのような制度が採用されることはおそらくありません。国会議員の選出にあたっては、民意をしっかり国政に反映させる必要がありますが、人口比にしたがった民意が絶対ではないからです。例えば、人口比例で選出した場合、大都市圏に人口が集中している日本でしたら、大都市圏の有権者の民意ばかりが国政に反映されることになりかねません。このような事態が適切とは考えられていません。
 

最高裁はどんな判断をした?

この点、最高裁判所は「憲法上,議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることが求められている……が,それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することが許容されている……具体的な選挙区を定めるに当たっては,都道府県を細分化した市町村その他の行政区画などを基本的な単位として,地域の面積,人口密度,住民構成,交通事情,地理的状況などの諸要素を考慮しつつ,国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに,投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められている」と述べています(最高裁判所平成27年11月25日大法廷判決)。
 

つまり、1人1票の平等が基本だけれども、それ以外の要素も考慮して選挙区を定めてよい、投票価値の平等と民意の的確な反映という要請が調和した選挙区が定められるべきと言っています。

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