「家族が認知症になったらタイヘンだ」
ニュースや知人の話を聞いて、あなたもそう感じていると思います。ただ、大変なのは、家族の介護のことだけだと考えていないでしょうか。
家族信託コーディネーターとして多くのご相談を受ける中で感じるのですが、実際に認知症の方を抱えるご家族が直面するのは、お金の問題です。介護費用だけでなく、財産管理や相続のことまで考える必要が出てきます。
特に、あなたが70代、80代の親を持つ50代の方であれば、なおさら認知症から家族の財産を守るための対策を考えるべきです。その理由は二つあります。
預金すら下ろせない!認知症で財産は凍結してしまう
一つ目の理由は、認知症になるとその方の持つ財産は凍結状態になってしまうからです。
認知症を患うと意思判断する力が低下します。意思能力が無いとみなされると、本人確認が必要な手続きや、契約行為は一切できなくなってしまいます。
たとえば、父が認知症になったら、父名義の預貯金は自由に引き出せなくなってしまいます。
また、父名義の実家を売却して、介護施設への入居費用の足しにすることもできません。不動産の売買は契約行為に該当します。
さらに、父が現金や株式、不動産など複数の財産を持っていて総額が大きく、そのままでは相続税が発生する場合でも、保険への加入や不動産の購入といった節税策を取ることができません。
「進学」「老後資金」「介護費用」のトリプルパンチがやってくるかも
二つ目の理由は、認知症のリスクがあなたの家族にも迫っているからです。
2025年までに日本の認知症患者は700万人を超えると推計されています。65歳以上の5人に1人が認知症になる時代がまもなくやってきます。特に、気を付けるべきは75歳からです。認知症の発症数は75歳から急増しています。70代、80代の親を持つ50代の方こそ、これから親の認知症に直面する可能性が高いのです。お子さんがいらっしゃる方であれば、高校や大学への進学などちょうどお金のかかる時期です。しかも自分の老後にも備えなければいけません。そんなタイミングで、親の介護とお金の話が一気にやってくるかもしれないのです。
成年後見人制度、家族信託…財産と認知症の問題に立ち向かう手段
では、家族の財産をどうやって認知症から守れば良いのでしょうか。
原則として財産は個人に紐づくので、たとえ家族であっても自由に動かすことはできません。親が認知症になってもその財産を管理できる主な手段は、次の2つです。
1. 成年後見制度
認知症などで判断能力が不十分な人が不利益を受けないために、家庭裁判所に申請して保護や支援をする人(成年後見人)を付ける制度です。
成年後見人になれば、預金の引き出しなどの手続きを本人の代わりに行うことができます。
認知症を患った後でも活用できますが、居住用不動産の売買には家庭裁判所の許可が必要になるなど、財産の活用よりも保全に主眼が置かれた制度です。
2. 家族信託
財産を持つ人が保有する不動産や預貯金などを信頼できる家族に託し、管理・処分を任せる財産管理の方法です。家族間で信託契約を交わし、家族が本人の代わりに財産管理を行えるしくみを作ります。また、遺言の代わりとして活用したり、遺言では不可能な2世代以上先の財産承継の順番を決めるなど、オーダーメイドの相続を可能にします。
ただし、認知症になる前に契約を交わしておく必要があります。
お金の話は、同じ家族だからこそ、とてもデリケートな話題です。ただ、認知症の症状が進み、手遅れになったら家族がたちまち困ることになります。
一度、「将来の介護をサポートするために、一緒に考えてほしい」と切り出してみましょう。まずは、問題意識を共有することが、認知症に立ち向かう第一歩です。