刑法の性犯罪関係の規定が改正。「親告罪」規定も撤廃
最近、刑法の性犯罪関係の規定が改正となり、7月13日より施行されます。何がどのように変わったのかコメントします。
ポイント1:強姦罪から強制性交等罪へ
強姦罪は、13歳以上の女性に対して暴行・脅迫の手段を用いて性行為をした場合、又は13歳未満の女性と性行為をした場合に成立し、処罰は3年以上の懲役刑となっていました。また、暴行・脅迫を用いなくとも女性を抵抗不能の状態であることに乗じたり、そのような状態を作り出して性行為をした場合(準強姦罪といいます。)も同様でした。
女性に対してとあるように、被害者は女性のみ、性行為とあるように、対象行為は性行為(つまりセックス)のみに限定されていました。
しかし、今回、強姦罪から強制性交等罪と名称が変わった上で、
- ① 性行為のみでなくそれに類する行為も対象に
- ② 被害者に男性も加わる
- ③ 処罰は5年以上の懲役刑となる
という改正がされました。①と②について詳しくは以下の通りです。
① 性行為のみでなくそれに類する行為も対象に
対象行為は、性行為だけでなく肛門によるもの(肛門性交)、口によるもの(口腔性交)にも広がることになりました。今まで肛門又は口によるものは、強制わいせつ罪(6か月以上10年以下の懲役)の対象に過ぎませんでしたが、今回の改正で性行為と同列に扱われるようになりました。
② 被害者に男性も加わる
男性も被害者になることになりました。性行為というのは、男性器を女性器に挿入することを意味しますが、今回の改正で男性が女性器に性器を挿入させられることも対象になりました。肛門又は口によるものも男性が被害者にも加害者にもなるということです。前者のような犯罪なんてあるの?と思われるかもしれませんが、今回の改正の過程で例えば施設等で男児が女性器等に挿入させられる被害が発生しているとの指摘があり、現実に発生している事象に対応したものです。
ポイント2:監護者わいせつ罪、強制性交等罪の新設
18歳未満の人を監護する人が、監護者であることの影響力に乗じてわいせつ行為をすれば強制わいせつ罪、性交等(性行為、肛門又は口による性行為)をした場合には強制性交等罪で処罰されることになりました。
これは、例えば(監護している)親が子に対する行為です。親子という関係性から、暴行や脅迫を用いなくとも影響力に乗じて行為に及ぶことがみられたところでした。そこで、このような行為を適切に処罰するための規定を新設しました。親の子に対する性的虐待等を想定した犯罪です。
ポイント3:被害者の告訴がなくても起訴できる「非親告罪化」へ
改正前までは、強制わいせつ罪、強姦罪、準強姦罪は親告罪でした。親告罪とは、被害者の告訴がない限り公訴提起、つまり刑事裁判にならない犯罪をいいます。今回の改正で、この親告罪の規定が撤廃されました。
理由は様々だと思いますが、かねてより、告訴がない限り裁判ができないとなると、裁判するかどうかは被害者の判断に拠ることになり被害者がそのような重大な決断をさせるのは酷だということや、加害者が裁判前に被害者に強く告訴の取り下げを求めてそれが被害者の負担になるといったことが指摘されていました。
その他の改正は?
その他には、集団強姦罪が強制性交等罪へ集約する形で廃止されたことや、強盗強姦罪が元々、強盗した犯人が強姦した場合のみを処罰していたものを、強姦犯人(ただし、改正で強制性交等罪をした犯人ということになりますが)が強盗をした場合にも、処罰の対象とすることになりました。この場合は無期懲役又は7年以上の懲役刑となります。
被害者保護の改正だが、将来の被害者を生まないための課題は残る
今回の改正は、処罰の必要性のあるものを処罰の対象とする、適切な重さの刑罰を設定する、被害者の負担を軽減するといった点にあり、いずれも被害者保護の要請によるものだと思われます。性犯罪、とりわけ強姦を始めとするそれに類する行為は、魂の殺人とも言われ、被害者に深刻な被害を残すものだと言われています。
もっとも、性犯罪の加害者には繰り返し犯罪に及ぶ者がいます。このような者には処罰だけではなく治療が必要だという意見があります。私も同様に感じており、加害者へのアプローチにより将来の被害者を生まないというのも大事な視点だと思います。