「総理のご意向」の告発は公益通報だから保護されるべき?
加計学園問題で、「総理のご意向」文書を告発した職員に対して守秘義務違反(国家公務員法違反)で処分する可能性があるとの報道がされています。
参照:守秘義務違反ない―菅氏 前文科次官の辞任巡り(共同通信)
これに対して、告発は公益通報だから保護されるべきではないかという意見が野党議員から表明されたりしています。
公益通報者保護法の仕組みとは
公益通報と聞くと、国民の利益に叶う情報を行政機関や報道機関に伝えるといった意味で理解されていると思われます。
しかし、公益通報者保護法での「公益通報」とは(ざっくりというと)刑法等所定の法律で犯罪とされている事実等について、労働者が正当な目的を持って、自分が所属する事業者、行政機関や外部の者(マスコミ等)に通報することをいいます。
そして、公益通報をした労働者を使っている事業者(以下、勤務先といいます)は、通報したことを理由に通報者を解雇等の不利益な取り扱いをしてはいけません。
このように、公益通報者保護法では、
- 通報対象の事実が限定されていること
- 公益通報をした人が保護されること
がポイントです。
どのような場合に保護されるかというと、少し複雑で、
●勤務先に通報する場合は、
通報する事実が存在すると認識した場合
※ただし、自分の利益を確保するためのように目的が不正の場合は保護されません。以下同じ。
●行政機関に通報する場合は、
通報する事実が真実だと信じることについて、確実な資料等にもとづ
※勤務先への通報より厳しいです。
●外部の者(消費者センター、国会議員、報道機関等)に通報する場合は、
- 通報する事実が真実だと信じることについて確実な資料等にもとづ
いて根拠がある場合で - 勤務先や行政機関に通報したら不利益な扱いを受けると信じる相当な理由がある場合、又は事業者に通報したら証拠隠滅されると信じる相当な理由がある場合といった所定の事由のうちの一つがある場合
※要件が最も厳しいです。
という仕組みになっています。
このように見ると、公益通報者保護法で保護されるのは結構ハードルが高いこと、また法は、まず勤務先内部で問題を解決することを求めていること(勤務先に通報するのが最もハードルが低いので)が分かります。
内部通報窓口は勤務先にもある?
ところで、勤務先によっては、内部通報窓口を設けていることがあります。公益通報者保護法の趣旨をふまえて制度設計・運用されていることが多いと思われ、また、そのようにされていることが望まれます。
そして、内部通報窓口のルールによっては、犯罪に該当するだけでなく広く法令違反一般について通報対象としている場合があります。
いじめを通報したら、公益通報者保護法で保護されるか
公益通報者保護法が対象となる典型例は、勤務先が食品の「産地偽装」しているとか「粉飾決算」しているといった、いわゆる企業不祥事といわれるものです。
では、例えば、勤務先の部署で「いじめ」に遭っている場合に、公益通報者保護法で保護されるのでしょうか。
この場合、保護されるためには「いじめ」が刑法上の犯罪に該当しなければなりません。具体的には暴行、傷害、器物損壊等が想定できます。しかし、そこまで悪質ないじめは数が限定されると思います。
しかし、内部通報制度のある場合で、例えば「法令違反一般」が対象だとすると、いじめは、民法上の不法行為に該当しますので、「法令違反一般」に該当することになります。
もし通報したいと思ったら何をすべき?
したがって、例えばビジネスパーソンの場合は、まず勤務先で内部通報窓口があるかどうか確認しましょう。
もっとも、存在する場合でも実体として労働者のために運用されていないこともありえます。つまり、窓口で収集した情報の管理がずさんだったり、不利益取り扱いをしたりする場合です。例えば、いじめられていると通報したら、早速相手方に連絡してしまって職場環境が一層悪くなってしまい、挙げ句、通報者が左遷されてしまったという場合です。そのような可能性がある場合には軽々しく相談できません。
とはいえ、行政機関や外部の者に対して通報するとして、対象の事実が所定の犯罪でその点をクリアできたとしても、その他の要件をクリアする必要があります。クリアするのは決して容易ではありません。したがって、通報するのに躊躇を感じることもあると思います。
弁護士会によっては公益通報相談の窓口を設けています(例えば、東京弁護士会)。そもそも弁護士は、相談内容について守秘義務を負っていますので、本人が同意しない限り決して第三者に漏洩しません。したがって、相談先など困ったことがあれば、この窓口で相談されるのがよいと思います。