「ブラック企業」の実名公表で浮かび上がる働き方改革の懸念材料

厚生労働省が、いわゆる「ブラック企業」の実名を公表した。公開基準は、長時間労働や賃金不払いなど労働関係法令に違反した疑いで送検された企業で、全国合計で344社だった。そこから浮かび上がったのは「日本の産業構造の陰の部分」と働き方改革への懸念だった。

344社が実名公表…その多くは中小企業だった

厚生労働省が5月10日に、いわゆる「ブラック企業」の実名公表を行いました。今回の公開基準は、長時間労働や賃金不払いなど労働関係法令に違反した疑いで送検された企業で、全国合計で344社でした。
 

参照:労働基準関係法令違反に係る公表事案(厚生労働省)
 

実名公開そのものの是非はともかくとして、少し気になったのは、リスト掲載企業に大手関連企業の名前がごくわずかで、大半が中小企業である点です。もっとも、中小企業は日本企業の大半を占めているので、リスト掲載企業の多くが中小企業であっても不思議ではないのですが、その企業が大手企業の下請けではないのか、という点が気になるのです。
 

大手企業との「主従関係は絶対」 よって現場は…

握手
大手企業からの指示は決して断れない…

理由はこうです。大手企業の下請けというのは基本的に、仕様、品質、価格等々、すべてにおいて発注元である大手企業の支配下にあります。つまり、仕様変更を言い渡されればそれに従い、品質の向上を求められればそれを順守する。さらに、納品価格を下げろと言われれば、それすらも飲まざるを得ない、そんな関係にあるのです。
 

そんな大手企業からの指示の中でも、価格ダンピングと並んでもっとも下請けの頭を悩ませているのが納期の短縮です。納期短縮は突然言い渡されます。製品が予想外に売れて品薄になった、競合他社との競争関係の中で急な方針転換を強いられた……。そんな折には下請けに、「悪いが納期を予定よりも早めて欲しい」という指令が入るのです。時には納期が半分に、ということも。そしてそれは決して断れないオーダーなのだと言います。
 

知り合いの大手電機メーカー下請け企業社長は、「大手取引先からの納期短縮指令は絶対です。断れば二度とその仕事は来ないと覚悟しなくてはいけませんから。たとえ長い付き合いでも、主従関係は絶対。それが結局、従業員に無理を強いることになる。中小製造現場のブラック化にはそんな事情もあるのです」と。この会社は、納期短縮を機とした長時間労働で辞めた若手社員が労基署に駆け込み、ブラック職場としてマークされるに至ったと言います。
 

日本の産業構造が生んだ「しわ寄せブラック」の弊害

メーカーだけではありません。取材を通じて知り合ったテレビ番組制作会社のディレクターも、同じような実態を語ります。「下請け制作会社はどこもテレビ局の言いなりです。彼らの都合で締め切りが決められ、作ったものにダメが出されても当初の期限までに修正して納品する。徹夜も日常茶飯事です。大手がホワイトを目指せば目指すほど、ブラックな部分はすべて下請けに寄せられる、我々は言ってみれば『しわ寄せブラック』です」。
 

彼によれば、広告代理店の下請けデザイン会社、ゼネコン下請け企業、IT大手の下請けプログラミング会社等々、日本ではあらゆる業界に「しわ寄せブラック」は存在する、と言います。大手企業と下請け中小企業の主従関係。「しわ寄せブラック」はある意味、大手企業が下請け企業を支配するという垂直統合を得意としてきた日本の産業構造が生み落とした陰の部分とも言えそうです。ならば今また、働き方改革が叫ばれ大手企業がここに取り組むことで、更なるしわ寄せが下請けを襲うのではないかという懸念が感じられもするのです。
 

経産省は「下請けGメン」を本格始動するが…

雑踏
「しわ寄せ中小企業」たたきで終わらない対応が望まれる

経済産業省は大企業が中小企業への買いたたきなどをしていないかを調べる「下請けGメン」を4月から本格始動するなど、これまで手がけてきている「下請けいじめ」防止にさらに本腰を入れて動き出しました。しかしこれはあくまで、経産省所轄の発注価格部分に限った話に過ぎません。
 

厚労省は今後ブラック企業リストを毎月更新すると公言していますが、ならば納期に関する「下請けいじめ」の実態はどうなのか、リストに上がった中小企業が実は「しわ寄せブラック」の被害者ではないのか、経産省同様に自らの足で調査することが必要でしょう。そして、もししわ寄せの存在が判明するなら、その大手企業こそ実名公表されるべきなのです。
 

ブラック企業リストの公表をしわ寄せ中小企業たたきで終わらせず、ブラック職場を根源から絶つ。厚労省にはそんな気概を持った対応が望まれるところです。

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