17日も新宿駅で線路に飛び降り逃走…

痴漢疑い

最近、列車内で痴漢容疑をかけられた人が、線路内に立ち入って逃走するという報道によく接する気がします。17日も、JR新宿駅で痴漢を疑われた男が線路に飛び降り、池袋方面へ逃走したといいます。
 

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列車に乗っていると、線路内立ち入りを理由とするダイヤ乱れに出くわすことがありますが、痴漢(容疑の人)が逃げているのでしょうか? 線路内に立ち入るのは危険であるのはもちろん、法的にも問題がありそうです。
 

そこで、線路内立ち入りを含めて痴漢にまつわる法律関係について解説したいと思います。
 

痴漢行為ではどのような罪に問われるのか

一般的に男性が女性の身体を触るなどの行為に及んだ場合、その男性を痴漢、その行為を痴漢行為といいますが、これらは法律上の概念ではありません。
 

痴漢行為は、その内容により、いわゆる迷惑防止条例違反(東京都の場合ですと、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例5条1項1号)か、刑法上の強制わいせつ罪(刑法176条)に該当します。前者ですと6カ月以下の懲役又は50万円以下の罰金、後者ですと6カ月以上10年以下の懲役となり、罪の重さが異なります
 

なぜ痴漢を疑われた人は線路内を逃げてしまう?

ところで、線路内を逃走している痴漢(容疑の人)は、何から逃げているのでしょうか。
 

ネットなどを見ていると、「痴漢と疑われたら逃げろ!」と指南しているものもあるのですが、要するに逮捕されないために逃げているのだと思われます。
 

逮捕というのは、被疑者(容疑者)が一時的に身体拘束されることをいうのですが、痴漢行為の現行犯の場合、現行犯逮捕といって誰でもその痴漢(容疑の人)を逮捕することができます。逮捕されると、その後は、警察官に引渡⇒検察官送致(いわゆる送検)⇒勾留となることが多いのです。勾留までされると逮捕から最大23日間身体を拘束されます。一般的には警察署の留置施設で拘束されます。勾留を経て、その後起訴されるとさらに身体拘束(これも法律上勾留といいます)は続きます。
 

このように現行犯逮捕を含めて、逮捕されることは全うな社会生活を送っている人に大きなダメージを与えます。したがって、逮捕されないように自分を守るのは、ある意味重要なことであり(悪いことをしているのに逃げ通せるという意味ではありません。あくまで身体拘束されないという意味です)、このようなこともあり「逃げろ!」の指南が出てきたのではないかと推察します。
 

線路内に立ち入って逃走することは違法行為

では、線路内に立ち入って逃走することは法律上問題がないのでしょうか。
 

そもそも線路内への立ち入りは原則許されません。鉄道営業法37条において禁止されているからです。これに違反すると科料(1万円以下)という刑罰まで受けることになります(鉄道営業法37条、罰金等臨時措置法2条1項)。
 

また、鉄道営業法に違反する行為ですから、民事上も違法です。つまり、民事上の不法行為責任(民法709条)を負います。したがって、線路内立ち入りによって列車を遅延させたり運休させたりすると、鉄道会社からそれによる損害賠償を求められることも考えられます。
 

以上のように、線路内に立ち入ることは違法であることは明らかです。
 

腕をつかまれた時点で実はすでに「逮捕」されている?

ところで、痴漢(容疑の人)が線路内に立ち入るかどうかはともかくとしても、逃走した場合、本当に逮捕されないのでしょうか。事案により色々ですが、私はそんなことはないと思います。
 

例えば、電車内で前に立っている女性に腕をつかまれて「痴漢ですね。一緒に来て下さい」と言われて、一緒に駅のホームに出たとします。女性が「一緒に駅員さんの所に行きましょう!!」などと手を引っ張ろうとした際に、痴漢(容疑の人)がその手を振りほどいて逃走したとしましょう。
 

さきほど、「逃げるのは逮捕されないため」と述べましたが、この例だと、実はほぼ「逮捕」されてしまっています
 

というのは、女性は、痴漢(容疑の人)の手を掴んでいますから、この時点で少なくとも逮捕に着手したといえるわけです。したがって、逮捕はすでに始まっており、この時点で逃走したとしても「逮捕されないために逃げた」とはいえません。逮捕されたけれども逃げたということになります。ちなみに、刑法上身体拘束されている被疑者(容疑者)が逃走した場合、逃走罪等(刑法97条等)の犯罪が成立するのですが、逮捕されているだけの被疑者(容疑者)はこれに該当しないと言われていますので、逃走すること自体が犯罪になるわけではありません。
 

「逃走」すると逆に不利になる場合も

逃げ切ってしまい、その後も身元がばれずに逮捕されなければ、もちろん逮捕から逃れることができたといえるかもしれませんが、ただし、「逮捕されなかった」のではなく、「逮捕されたけど逃げた」というのが正しい表現となります。
 

もしその後、身元がばれれば、改めて逮捕される可能性は高いと思います。また、その後痴漢行為について冤罪だと訴えても「じゃあ、なぜ逃げたの?」ということになり、逃げたこと自体が有罪の決め手にはならないものの、その後の裁判では、痴漢(容疑の人)にとって不利になりこそすれ、有利にはならないでしょう。
 

では、どうすればいいでしょうか。
 

「名刺を示せばいい」という対策は正しいのか?

ネットなどを見ると様々な方法が紹介されていますが、決め手になるようなものはありません。考えればそれは当然で、現行犯逮捕を逃れることができる手があるとすれば、それはある意味で法の不備ということになりますから、そのような「抜け道」が許されることは考え難いからです。
 

そこで、まずは、痴漢行為をやっていないのなら最初からそのことをきちんと説明すべきです。名刺を示せばいいという方法もよく言われますが、これにより逮捕されないということにはならないものの、素性を明かして無実であることを説明しているという意味では少しは効果的かもしれません。
 

ただし、先ほど説明したように、名刺を出す段階ではおそらくすでに逮捕されている場合が大部分ですから、その時点で相手が解放してくれない以上、逮捕は続きますので、その後検察官送致⇒勾留という流れに入っていくことになります。
 

大事なのは勾留されないようにすること!そのためには…

何より大事なのは、逮捕されたとしてもすぐ弁護士に連絡を取ることです。というのは、逮捕された後勾留という手続があることは先ほど述べた通りですが、逮捕は約3日間の身体拘束で比較的短期である一方、勾留は最大20日間と長くなっています。そして、勾留は逮捕とは別の手続なので、逮捕されたけど勾留されないということもあります。
 

そして、勾留するかどうかは裁判官が決めるのですが、裁判官が検察官の勾留請求を却下する割合が最近上昇傾向にあります。もちろん事案によるものの、家庭を持っているサラリーマンのような一般的な社会人であれば、勾留請求が却下される可能性は十分あると思います。
 

このように逮捕された容疑者からすると、いかにして勾留されないようにするかが大事なのです。そして、勾留されないようにするために必要な準備をして、本人に代わって活動できるのは弁護士だけです。したがって、逮捕直後から弁護士からの援助を受けることが何よりも大事ということになります。
 

なお、弁護士に心当たりがなくとも、各弁護士会では当番弁護士制度を設けており、弁護士の派遣を要請することができます(1回目は無料でアドバイスを受けることができます)。このように、逮捕されたらとにかくすぐ弁護士を呼ぶというのが自分自身を守る最大の方法だと思って間違いはありません。