羽生が逆転優勝!フィギュア世界選手権で多くのドラマが生まれた理由

先日のフィギュア世界選手権では羽生結弦の大逆転勝利や、総合2位になった宇野昌磨の安定感など、男子シングルが注目されたが、女子シングルもペアやアイスダンスでも、たくさんのドラマが見られ、稀に見る素晴らしい大会だった。その理由とは?

ドラマが多かったフィギュア世界選手権

ショートプログラム5位から羽生結弦が見せた大逆転勝利や、ショート2位、フリー2位の総合2位と宇野昌磨が見せた安定した強さ、トップ選手たちが多種類多数回跳ぶ4回転ジャンプ……と、先日終了した世界選手権の男子シングルを熱く観戦された方も多かったことでしょう。
 

全体として見ても今大会は、男子シングルだけでなく、女子シングルもペアやアイスダンスでも、胸を打つ演技や順位の変動がたくさん見られた、稀に見る素晴らしい大会でもありました。
 

男子シングルは技術面、芸術面双方での高難度化

羽生と宇野
男子表彰式で笑顔を見せる宇野昌磨(左)と羽生結弦(写真:田村翔/アフロスポーツ)

男子シングルでは、ショートに4回転を2つ入れた選手が7人(認定された数)、フリーでは、羽生と宇野、ボーヤン・ジン(中国)が4つ決めてそれぞれ表彰台に乗りました。フリー4位総合6位のネイサン・チェン(アメリカ)は、フリーで6つの4回転にトライし(うち2つは転倒)、パトリック・チャン(カナダ)とハビエル・フェルナンデス(スペイン)はフリーで3つの4回転を入れました(フェルナンデスは1つ転倒)。ほかにも、4つ入れた選手が1人、3つ入れた選手が1人、2つ入れた選手は複数いた、そんな高レベルな大会でした。
 

とはいえ、4回転ジャンプだけでは勝ちきれないのが今の男子シングル。4回転を複数決めたうえで、できる限りプログラムでミスを少なくし、演技構成点(スケーティングスキルや音楽の解釈など)でも高い評価を受けて……と、技術面、芸術面双方での高難度化が見られました。
 

女子シングルで強烈な印象を残した三原舞依

女子シングルでメダリストとなったのは、今シーズンを通して安定した成績を残してきた、エフゲーニャ・メドベージェワ(ロシア)とケイトリン・オズモンド(カナダ)、ガブリエル・デールマン(カナダ)の3人。3人ともショート、フリーともに、GOE(ジャンプ、スピン、ステップ出来栄え)にほとんどマイナスがない、上質な技術力を見せています。
 

またもう1人強烈な印象を残したのが、ショートでジャンプミスをして15位スタートとなった三原舞依でした。今季シニアに上がったばかりの17歳だが、水が流れるような素直でスピーディなスケートを見せ、フリーだけの順位では4位。四大陸選手権優勝とあわせて、一躍注目される存在となりました。
 

「らしさ」が発揮できたペアがメダリストに

ペアでは、4回転ツイストリフトやスロートリプルアクセルなどの高難度技と、その2人だからこその叙情性やドラマが感じられる組がメダルを手にしました。
 

優勝したのは、シーズンオフに女性が両足を手術し、シーズン前半は練習もままならない日々を送ったウェンジン・スイ&コン・ハン(中国)。以前は技術面の高さが強烈に印象に残るペアだったのが、年を経るごとに熱い思いの感じられる演技を見せるようになってきたのが印象深かったです。
 

銀メダリストとなったアリョーナ・サフチェンコ&ブルーノ・マッソ(ドイツ)は、ペア結成後、国籍問題などがあって昨季まで国際大会に出場できない日々を過ごしました。今大会ではスロートリプルアクセルを入れつつ、エレガンスとダイナミクスの共存したヨーロッパらしいペアの演技、そして28歳と33歳だからこその味わいが感じられる演技で魅せました。
 

2位以下の点数が拮抗したアイスダンス

アイスダンスでは、今季復帰したテッサ・ヴァーチュ&スコット・モイア(カナダ)が優勝しましたが、彼らもフリーは2位。フリー1位のガブリエラ・パパダキス&ギヨーム・シゼロン(フランス)に追い上げられました。
 

ショートを終えた時点で、2位以下の8チームが4点ほどの間にひしめいており、フリーでほんの少しでもミスをしたらすぐに順位が変わってしまう拮抗した状況でフリーを迎えることになりました。緊迫する空気の中、どのカップルも気迫あふれるフリーを見せ、演技が終わるたびに会場は沸き上がり、今大会最後の競技となったフリーダンスは、大いに盛り上がりました。
 

平昌五輪のシーズン前だからこそ…

毎シーズン後半に開催される世界選手権は、そのシーズンの集大成的な意味合いを持つ、とても重要な大会です。そのため、どの選手もこの大会で最高の演技ができるように練習を積んできます。
 

なかでも今大会は、2018年2月の平昌五輪前最後の世界選手権。この大会の最終順位によって平昌五輪の各国の出場枠が決まること、そして、五輪シーズン前にいい印象を残しておきたいという思いから、例年以上に熱くドラマティックな演技が見られたように感じられました。
 

この結果を受けて、平昌五輪の各国の出場枠が決まりました。
 

■男子シングル

  • 3枠:日本、アメリカ
  • 2枠:カナダ、ロシア、スペイン、中国、イスラエル
  • 1枠:ウズベキスタン、ジョージア、ラトビア、オーストラリア、カザフスタン、フランス、チェコ、ドイツ

■女子シングル

  • 3枠:ロシア、カナダ、アメリカ
  • 2枠:日本、イタリア、カザフスタン、韓国
  • 1枠:中国、ベルギー、スロバキア、フランス、ドイツ、ハンガリー、ラトビア

■ペア

  • 3枠:中国、ロシア、カナダ
  • 2枠:イタリア、ドイツ、フランス
  • 1枠:アメリカ

■アイスダンス

  • 3枠:カナダ、アメリカ
  • 2枠:フランス、ロシア、イタリア
  • 1枠:イスラエル、デンマーク、ポーランド、ウクライナ、中国、トルコ、スペイン
     

今大会の結果から、日本はペアとアイスダンスでは平昌五輪の出場枠を獲得できませんでした。とはいえ、出場枠を取ることのできなかった国は、9月に開催されるネーベルホルン杯(ドイツ)で残る枠を争うことができます。残る出場枠は、ペアは4枠、アイスダンスは5枠。半年後の熱い戦いも、楽しみです。

  

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