トランプ氏が大統領に就任へ 「敏腕ビジネスマンの交渉術」に要注意

ドナルド・トランプ米国次期大統領の就任を現地時間20日に控え、我が国のメディアもこぞってトランプ大統領就任後の影響について取り上げています。

日本との関係で気になるのは外交術ですが…

トランプ
勝利集会で喜びの表情を見せるトランプ氏=日本時間11月9日(写真:ロイター/アフロ)

ドナルド・トランプ米国次期大統領の就任を現地時間20日に控え、我が国のメディアもこぞってトランプ大統領就任後の影響について取り上げています。

  

トランプ氏の我が国がらみの施策面でまっ先にポイントとなるのはもちろん外交面ですが、その外交術を考える時、氏がそもそも政治家ではなく米国有数のビジネスマンであるという点には大いに着目が必要でしょう。すなわち、百戦錬磨のビジネスマンの技として繰り出されるであろう交渉術にはかなりな注意が必要であると見ています。

  

トヨタも驚いた「トランプ発言」

氏は大統領就任を前にして早くも、外交に関わるビジネス交渉のプロとしての片鱗をうかがわせています。その最たるものが、メキシコ工場増設を計画するトヨタを名指しし、同社の投資が新政権の敵対隣接国に向けられることと米国内での雇用創出機会が奪われることを問題視した、トヨタ車への米国輸入関税大幅引き上げの示唆発言でしょう。

  

トヨタの豊田章男社長はこのトランプ発言に驚き、あわててこの先5年で1000億ドル(約1.1兆円)の対米投資を約する回答でこれに応える展開になりました。トランプ氏はその後この件には音無の構えを見せていますが、呼びかけに対するトヨタの反応に心中では、交渉の主導権を握り「しめしめ」と思っているのではないでしょうか。

  

いきなり強引な要求を突きつける手法

このトランプ氏のやり口であるビジネス交渉術は、一般的に「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」と呼ばれるものです。ドアを開けると同時に、いきなり強引な要求を突きつけるというもの。どんな法外な要求でも断れば、断った側は少なからず罪悪感を抱いてしまうという心理を利用した交渉テクニックで、真の狙いはハナから法外な要求を受け入れさせるつもりなどなく、最初に脅して断られれば代わりに小さな要求を飲ませるというものなのです。トヨタはまんまとトランプ氏の術中にはまってしまったのかもしれません。

  

一方で「下手に出る交渉術」を見せる時も

そうかと思うとトランプ氏は逆に、相手が手ごわいと見るやいきなり下手(したで)に出る交渉術も見せています。その一端は、いきなりのロシアに対するこれまでにない「親ロ」姿勢をうかがわせる発言に見て取れます。11日の会見でトランプ氏は、「プーチン氏は私を好んでいる。米国にとっては資産だ」と誰もが驚く発言をしました。この意外な発言の裏には、ロシアの固く閉ざされた交渉扉をまずは開けさせ、なだめすかしながら中東のイスラム国(IS)掃討やシリア和平協議へのロシアの協力を言葉巧みに段階的に引き出し、結果米国の負担を減らそうという狙いが見え隠れしているのです。

   

こちらは「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」と言われる交渉術です。なかなかドアを開けてくれないような個別宅訪問で、いわゆるドアノック商品と言われる食い付きのいいものを見せてドアを開けさせ、開いたとみるやその隙間に足先を突っ込んでドアを締めさせず、本題の折衝に持ち込むという交渉術なのです。これまでの米国の対ロシア強攻策とはうって変わった氏のコメントは、まずは相手を持ち上げて親近感を与えつつドアが開き足先を突っ込むタイミングをはかる、そんな戦略に思えます。

  

交渉ベタで有名な日本人には手ごわい相手

このように、相手の顔色しだいで巧みに出し手を変えるようなビジネス交渉術を繰り出すトランプ氏。国際的にお人好しでかつ交渉ベタで有名な日本人には、かなり手ごわい相手のように思えます。正式就任前にいきなりプロの交渉テクニックを見せつけられた首相はじめ我が国の政治家、対米貿易問題等で標的にされうる企業経営者の方々は、今からでも遅くありません、交渉術のノウハウ本を読みあさった方がいいかもしれません。

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