福島県から横浜市に自主避難した男子生徒がいじめ被害
東日本大震災を起因とする原発被災者は、日本各地に避難しており、その中には当然小中学生もいます。報道によると、福島第一原発事故で福島県から横浜市に自主避難した中1の男子生徒は、小学生の頃から転校先で「菌」と呼ばれたり、賠償金があるだろうといって現金を渡すよう求められたりしていたそうです。仮に、これらの事実がその通りだとすると、いわゆる「いじめ」であることは明らかです。
いじめとはどのような定義がある?
「いじめ」については法律で定義があり、いじめ防止対策推進法(いじめ防止法)によると「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう」(いじめ防止法2条1項)とあります。
かなりざっくり言うと、ある児童が、学校の同級生などの関係にある児童から心理的に苦痛に感じる行為を受けたり、暴力を受けたり、金品を取られたりすることということです(法律の定義ではもっと広い意味ですが、解説は省略します)。
したがって、男子生徒が「菌」と呼ばれるのも、現金を求められるのも、「いじめ」にあたるわけです。
警察が動かないと泣き寝入りしないといけない?
報道によると、男子生徒側は、現金を渡したことについて警察に相談したようですが、「恐喝」事件として立件できないと判断されたようです。
もっとも、これは子ども同士のいじめだからというわけではなく、例えばいじめであっても、暴行すれば「暴行罪」、怪我をさせれば「傷害罪」という具合に刑法上の規定に該当すればいじめでも立派な犯罪が成立します。
それでは、今回の男子生徒は、警察が動いてくれない以上、法的に救済を求めることができず泣き寝入りしないといけないのでしょうか。
もちろんそのようなことはありません。たとえ刑法上の規定に該当しなくとも、民法上「不法行為」と評価されれば、男子生徒が負った損害について賠償責任を追及することが可能です。
では、誰に追及するのか。考えられるのは、加害児童本人、加害児童の両親、学校といったところでしょう。順に検討してみます。
加害児童の場合は責任能力の有無による
加害児童本人は、不法行為(前提として「いじめ」が不法行為と評価される必要がありますが、一応不法行為と評価されることを前提にして考えていきます)をした張本人ですから原則として責任を負いますが、児童に責任能力がない場合は負いません。責任能力については、判例や学説では概ね12歳程度を目安にしてその有無が判断されますが、一律に12歳というわけではなく、個別の事案に応じて判断されます。報道によると男子生徒は小学校でいじめに遭っていたようですので、加害児童の責任能力なしと判断される余地もあります。
では、両親はどうでしょうか。両親は子を監督する義務を負っています。その関係で、責任能力がない子が行った不法行為については、両親が責任を負います(ただし例外もあり、責任を負わないこともあります)。また、子に責任能力があるとしても(例えば15歳の子なら明らかに責任能力は認められるでしょう)未成年者であれば、やはり両親が子とともに不法行為責任を負うことがあります。
学校はどうでしょうか。学校は、一般論として児童の安全を確保する義務(安全配慮義務)を負っています。したがって、いじめ被害を受けている生徒がいればその安全を確保すべき義務を負うのです。もっとも、どのような場合に責任を負うかは個別の事案に即して判断されているのが実情です。