もともと将棋は男女に大きな競技人口と実力の差があり、将棋のプロは男性しかいませんでしたが、50年ほど前に女性だけの「女流棋士」の制度ができて、女性のプロが誕生しました。
女流棋士は、棋士になるよりも実力面でのハードルは低く設定されています。そして、現在にいたるまで棋士になった女性は1人もいません。
棋士になる主なルート「奨励会」所属経験のある西山白玲
棋士になる主なルートは、10代前半で棋士の養成機関である「奨励会」に入ること。6級で入会して、会員同士の対局の結果により級と段が上がっていきます。最も上の三段にたどりつくと、40人ほどが参加するリーグ戦が半年ごとに行われ、そこで原則上位2名が棋士になることができます。原則26歳までという年齢制限もあり、棋士になれずに奨励会を去っていく人が数多く存在します。西山白玲は、かつてはこの奨励会三段リーグに所属しており、あと一歩で棋士になれる3位という成績を挙げたこともありました。
奨励会を経る以外にも棋士になるルートはあります。それが「棋士編入試験」です。女流棋士は女流棋士同士、棋士は棋士同士で対局するのが将棋の各棋戦ですが、女流タイトル保持者など一部の成績優秀な女流棋士は、棋士の棋戦に出場することができます。
西山白玲は棋士と互角に近い実力を持つと言われ、出場した棋戦で(男性の)棋士にも数多く勝っています。その棋戦で10勝5敗、13勝7敗など6割5分以上の成績を挙げると、棋士編入試験を受けることができます。
西山白玲は2024年7月に13勝7敗の成績をクリアし、同年9月から編入試験を受験しました。直近で棋士になった順から5人の棋士と対局し、3勝したら棋士の資格を得るというもので、西山白玲は2勝3敗とあと1勝が足りずに棋士になることはできませんでした。
大きな制度改革「タイトル白玲5期で棋士に」
そして、翌2025年の6月に大きな制度の変更がありました。女流タイトル棋戦の「白玲戦5期獲得」により女流棋士が棋士の資格を得ることができるという案が、日本将棋連盟の棋士総会で可決されたのです。
当時の西山白玲は白玲のタイトルを3期獲得しており、2025年10月には4期目を獲得(防衛)。そして今回の2026年8月、5期目がかかる白玲戦が開幕するというわけです。
奨励会にしろ棋士編入試験にしろ、男性会員、男性棋士に多く勝たなくては棋士になることはできません。
しかし「白玲5期」という条件は、女性だけのタイトル戦で多く勝てば棋士になることができる、これまでとは異なるものです。そのため、将棋ファンの間でも、この制度には反対という声も上がりました。
白玲戦はそれ以前の女流タイトルとは異なり、ABCDの4つのクラス(級)に分かれて対局し、クラスで上位の成績を挙げなくては上のクラスに上がることはできない仕組みで、「女流順位戦」とも呼ばれています。
総当たり戦で行われる一番上のA級の最上位者が、白玲のタイトルに挑戦することができます。他の女流タイトルが三番勝負、五番勝負であるのに、白玲戦だけは七番勝負。今期で6期目のまだ新しいタイトル戦ながら、得られる賞金は4000万円と突出して高く、女流最高峰の特別なタイトル戦です。
女流棋界のツートップ「福間女流四冠」との戦い
今回の白玲戦の挑戦者は、福間香奈女流四冠です。西山白玲(女流四冠)と福間女流四冠は女流棋士のツートップと言われる実力者。8つあるタイトルは、この2人だけで分け合っています。どちらかがタイトル保持者のとき、どちらかが挑戦者になるというケースも多く、両者によるタイトル戦は20回を超えています。実力は拮抗(きっこう)していて、西山白玲が今回防衛して白玲5期となるのかは全く分かりません。
前述の通り、棋士になった女性は今までに1人もいないため、初の「女性棋士」誕生なるかということに大きな注目が集まっています。先日、西山白玲の記者会見が開かれましたが、今回防衛してタイトル5期となった場合、棋士になる権利を行使するのかという質問には明言を避けました。
棋士になったからといって女流棋士をやめる必要はなく、女流棋士であり、棋士でもあることは認められます。
ただ、女流棋士から棋士になったケースはこれまでにないため、どれくらい大変なのかは未知数で、女流棋士としての対局と棋士としての対局をどう両立するのかなど、手探りになることも考えられます。
また、白玲5期で得られるのは「棋士になる権利」で、それを行使するかどうかは本人次第。権利は行使せず、これまで通り女流棋士としてだけ活動する道もあります。
タイトルのゆくえと西山白玲の決断、そして初の「女性棋士」は白玲5期により誕生するのか、それとも今後の奨励会や棋士編入試験を突破した者になるのか注目です。
※段位、タイトル数は2026年8月19日時点
この記事の執筆者:宮田 聖子
ライター。アマチュアの将棋大会の運営を2008年から続けつつ、文春オンラインとマイナビ出版・将棋情報局でプロ棋士のインタビューやアマチュア将棋の記事を執筆。著書に『アマ最強への道 将棋強豪の勉強法と習慣』(マイナビ出版)がある。



