ヒナタカの雑食系映画論 第219回

映画『鬼の花嫁』で永瀬廉が体現する「俺様ではない魅力」とは。『シンデレラ』的物語へのアンチテーゼも

映画『鬼の花嫁』は、物語の流れは『シンデレラ』的でありながら、明確に「アンチテーゼ」としての側面も持つ作品でした。吉川愛と永瀬廉が演じたキャラクターの描写から解説しましょう。(※画像出典:(C) 2026「鬼の花嫁」製作委員会)

鬼の花嫁
『鬼の花嫁』3月27日(金)配給:松竹 (C) 2026「鬼の花嫁」製作委員会
小説を原作とし、コミック版も人気を博した映画『鬼の花嫁』が劇場公開中です。

本作は「あやかし(妖)と人間が共存する世界」を舞台とし、「あやかしから“花嫁”としてみそめられることが“最高の名誉”とされる価値観」がまかり通った中での物語。それらのファンタジー要素に説得力を持たせた衣装や画作りも大きな見どころとなっていました。

『シンデレラ』的な物語を「問い直さなければいけない」という感覚があった

さらには、「家族に虐げられていた女性が、権力を持つ美しい男性に出会い救われる」序盤の流れは、まさに『シンデレラ』そのもの。原作やコミック版は、そのシンデレラストーリーを「女の子の夢」をかなえるかのように、ストレートに届けていた作品でした。
もちろん、映画でもその流れは踏襲されているのですが、実際の本編を見ると、その『シンデレラ』的な価値観を決して「全肯定」はしない作品になっていました。実際に池田千尋監督はCINRAに掲載されたインタビューで、以下のようにはっきりと表明されているのです。

原作には、「王子様が運命的に助けにきてくれる」というシンデレラ的な物語構造がたしかにあるんですね。でも映像としてリアルに表現したときに、普通に生きていた女性のもとにある日突然王子様的な存在が現れて、「あなたはお姫様です、一緒に来てください」と言われたとして、現代の若い女性がそれを素直に嬉しいと受け取れるだろうかということについて考えたんです。
(中略)
それと、シンデレラ的な物語には、女性は守られるものだという固定概念があったと思うんです。それをいまの時代に問い直さなければいけない、という感覚もありました

「王子様的な存在を、現代の若い女性は素直にうれしいとは受け取れないのではないか」「女性は守られるものだという固定観念は、いまの時代に問い直さなければいけない」という作り手の意志は、吉川愛演じる大学生の東雲柚子、永瀬廉演じる鬼の一族の次期当主・鬼龍院玲夜という、2人の主人公の描き方にはっきりと表れていたと思うのです。内容に触れつつ解説しましょう。

吉川愛が熱演する柚子は、原作よりも「意志を強く表明する」女性に

原作およびコミック版の柚子は、家族から虐げられていることはもとより、高校生であり未成年の子どもだと自覚していることもあって、「自分を肯定してくれる存在」を求めていた、かなり受け身な印象があるキャラクターでした。

例えば、自身を花嫁だと言ってきた玲夜に対して「まだ実感は湧かないが、あんなに美しい人に愛すと言われて舞い上がらないわけがない。なにより柚子が欲しかったものをくれると言うのだ」などと、戸惑いつつも「まんざらでもない」心理もはっきりと描かれていたのです。
鬼の花嫁
(C) 2026「鬼の花嫁」製作委員会
一方、映画での柚子は大学生になってはいるものの、家族に(原作よりもさらに苛烈に)虐げられている状況からは抜け出そうとはしておらず、やはり受け身な印象もあります。

しかし、玲夜から花嫁だと言われたことに対しては、「玲夜さんのことを何も知らない」「他人に甘えられない」などと、彼の言動を受け入れることをほぼほぼ拒絶していますし、さらに玲夜から「大学なんて無理に行く必要はない」と言われると「なんでそんな勝手に!」と、ほぼ怒りの感情を露わ(あらわ)にしたりするのです。

映画での柚子は、生き地獄のような環境から解放しようとしてくれることには感謝をしつつも、人生の全てをコントロールするような言動にははっきり「No」と言うバランスになっているのです。自分の意志をはっきりと表明する彼女に共感し、心から応援できる人はきっと多いでしょう。

そして、「弱々しく見えるけど実は芯の強い」柚子を、吉川愛はこれ以上はないほどに熱演されていたと思います。先にあげたCINRAの記事では、柚子がひどい仕打ちをする家族から離れられないことも、吉川愛は「(自分を虐げてきた)妹のことも大事に思ってる。家族からどんなひどい仕打ちを受けても、簡単には諦められない」と分析しています。
鬼の花嫁
(C) 2026「鬼の花嫁」製作委員会
なるほど、吉川愛の言うとおり、「これまでは状況を受け入れてしまっていた」ことさえも、実は柚子の意志の強さの表れであり、そんな彼女だからこそ「玲夜の言動を簡単には受け入れない」のだと納得できたのです。
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永瀬廉が演じた「完全無欠ではない」玲夜の魅力
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