「学力の担保」が多様性の壁になる構造
それは単に“学力の担保”ができる学生を選んでいくと、「首都圏の学生」と「男子学生」が多くなるからです。東大の推薦入試においては、「探究学習や活動実績などで大きな成果が必要」「数学オリンピックや物理オリンピックのメダリストが合格していく」という誤解がまん延しています。
その理由は、合格者インタビューに登場する学生が自分の探究学習の成果や数学オリンピックの成果を語るからです。
例えば、東大の公式Webサイトには開成高校出身の数学オリンピックメダリストが推薦入試の合格者として紹介されています。そこでは数学への情熱が語られていますが、当然ながら個人の評定平均値までは公表されません。
また、旧帝大クラスの推薦・総合型選抜では評定4.6以上ないとまず受かりません。開成高校の生徒や先生方はそのあたりの相場観を持っているので、実績があっても評定に自信がなければ、そもそも出願自体を控える傾向があるのではないでしょうか。
紹介されていたメダリストは、4.6以上とまでいかなくても、4.3以上はあったと推測できます。4.3と言えば上位10%なので、開成でその成績があれば一般選抜に現役で合格する学力があったはずです。
要は単に数学オリンピックのメダリストだから合格したわけではなく、数学オリンピックのメダリストだから出願できたことに加え、高い学力や評定を持っていたことも合格の要因だったと推測できます。
取材すれば分かるのですが、数学オリンピックや探究コンテストで賞を獲っていなくても、オーソドックスな探究学習の成果で東大の推薦は合格できます。
ただ、どうしても「高い学力」は必要だということです。今、探究学習が必修になっているので、難関高校の生徒たちは何かしらの探究の成果を持っています。
その成果をうまくリポートにまとめられた生徒のうち、評定平均値が高い生徒が出願して合格していくのが東大の推薦の現状に見えます。
その結果、多様性を掲げながらも、実際には高い学力が保証されやすい首都圏の男子学生が合格者の多くを占めることになります。
才能か勤勉さか。募集要項から読み解く不合格の理由
では、話題になっている「国際数学オリンピックで金メダルの高校生」は、なぜ不合格になったのでしょう。志望先の選択という点から見れば、今回のメダリストの高校生は、自身の強みを生かせる数学科がある理学部を受験したと考えるのが自然でしょう。
理学部の推薦の募集要項を見ると、
とあります。しかし、出願要件で「高校の成績が優秀であること」は必須になっていません。(ⅰ)特に優れた成績や研究成果(自主的な研究活動も含む)など
(ⅱ)科学オリンピック<数学、物理、化学、生物学、地学、情報、天文など>、高校生科学技術チャレンジ、日本学生科学賞など、国内外で開催された各種コンテストへの入賞、科学雑誌などへの論文発表、商品レベルのソフトウェア開発経験など
(ⅰ)、(ⅱ)のいずれか若しくは両方を有すること
話題の高校生は「学内成績の優秀さ」を武器にするのではなく、理学部の募集要項にある「数学オリンピックの成果」で出願した可能性があります。仮に評定平均値が高くない場合、それがネックになった可能性が出てきます。
評定平均値には体育や音楽などの実技科目も含まれます。これを大学側が重視するのは、単なる知能指数ではなく、不得手な科目にも手を抜かない「勤勉さ」を評価するためです。
オール5の成績をとっていれば「真面目な生徒」であると推測できるでしょう。実際、評定平均値と入学後の成績はリンクするというデータも複数の大学が持っています。
推薦入試や総合型選抜の合格者たちは探究学習や数学オリンピックなどの成果をアピールしがちですが、実際の合否には「学力」や「勤勉性」も重要だというわけです。
これは東大だけではありません。私立大学の総合型選抜も「とがった学生がほしいから総合型選抜をおこなう」と表向きはしていますが、実際には「この高校でこの評定平均値だから、これくらいの学力はある」ということを分析し、学力を確認して合否を決めていることは知っておくといいでしょう。 この記事の執筆者:杉浦 由美子 プロフィール
キャリア20年の記者。『大学受験 活動実績はゼロでいい 推薦入試の合格法』(青春出版社)、『女子校力』(PHP新書)、『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)など単著は14冊。『ダイヤモンド教育ラボ』、『ハナソネ』(毎日新聞社)『マネーポストWEB』(小学館)などで取材記事を寄稿している。趣味は取材。



