中国で「普通に会食」もスパイ容疑? 改正法で全駐在員が標的になる“人質外交”の罠

2023年施行の中国「改正反スパイ法」で、誰もがスパイ容疑者に。定義が曖昧なため、通常の会食や情報交換すら処罰の対象となり得ます。アステラス製薬の事件から透ける「人質外交」の実態とは?ビジネスパーソン必読の解説。(画像出典:Shutterstock)

反スパイ法の強化は「人質外交」のため

2014年11月、突如として可決され、即日施行された反スパイ法は、もともとひどい法律だった。それを、さらに厳しいものに変えた習近平政権の意図は何なのか?

ここで、2023年3月下旬、日本のアステラス製薬の幹部がスパイ容疑で逮捕されたことを思い出すべきだろう。

アステラス製薬の幹部は中国駐在歴およそ20年のベテランであり、その人となりについては、中国人官僚のあいだでも在中国日本人社会でも、評価が高かった。加えて現地の慈善事業にも熱心だったという。

そんな人格的にも優れ、日中間の架け橋的な役割を担っていた民間人が、3月末の日本帰国を控え、スパイとして逮捕された。しかも、具体的にどのようなスパイ行為をしたかについては明らかにされていない。

日本人は2024年までに、このアステラス製薬幹部を含めて少なくとも17人がスパイとして中国で拘束、逮捕、投獄されているが、このアステラス製薬の件は、これまでの「日本人スパイ」とは、少し内容が違うといわれている。

というのも、これまでの「日本人スパイ」の摘発は、中国側が法務省公安調査庁の協力者リストを入手し、それに基づいたアクションだったといわれている。そこには多分に内政的な要因、つまり権力闘争的な側面があったとされる。

習近平の政敵に当たる共青団(きょうせいだん)や太子(たいし)党の政治家や官僚を失脚させるために、彼らと良好な関係にある日本人が「スパイ」役にされた可能性がある。

実際に「機密情報」がやり取りされていたとは考えにくいが、中国側としては逮捕に至る、分かりやすい「リスト」という「証拠」は示せた。

だがアステラス製薬幹部の件は、「これに該当していない」といわれている。同じ時期に、アメリカの企業調査会社、ミンツ・グループの中国籍の社員5人が拘束され、シンガポール国籍の社員が出国停止命令を受けた例と考え合わせると、これは中国がアメリカやその同盟国に対して圧力をかけることを目的とした「人質外交」の側面が強いといえよう。

そして、いま反スパイ法を強化するのは、この「人質外交」の法的根拠を整備し、今後さらに「人質外交」を活用していこうということではないだろうか?

また、改正反スパイ法では、スパイの取り調べのためには、スマホやパソコン、そのほかの電子機器を押収して調べることも、財産を差し押さえることもできる。加えて出国禁止も即座に命令できる。

実際、中国では2024年7月1日から、スマホやパソコンなどを強制的に検査する権限を現場の担当者に与える新たな法規が施行されることになった。中国国家安全部が発表し「国家安全機関の行政法執行手続き規定」と「国家安全機関の刑事事件処理手続き規定」によるものだ。
新聞が語る中国の97%は嘘である (Hanada新書 008)
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この書籍の執筆者:福島香織 プロフィール
奈良県に生まれる。大阪大学文学部卒業後、産経新聞に入社。1998年から中国・復旦大学に留学。2001年、香港支局長。2002 〜08年、中国総局特派員として北京に駐在。2009年、産経新聞を退社、フリーに。中国の政治・経済・社会をテーマに取材を続ける。主な著書に、『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房)、『習近平の敗北 紅い帝国・中国の危機』(ワニブックス)などがある。
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