激戦区・中央線で「行列店」より愛される店。マニア評価で語れない「普段使い」のラーメン2選

ラーメン激戦区・中央線で、なぜその店は愛され続けるのか? 印南敦史著『この世界の中心は、中央線なのかもしれない。』より、荻窪「丸信」と高円寺「タロー軒」を紹介。地元民が通う「普段使いの中華そば」の魅力に迫ります。(画像出典:PIXTA)

(画像出典:PIXTA)
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次々と新しい行列店が生まれては消えていく、ラーメン激戦区・中央線。そんな激しい新陳代謝の中で、何十年ものあいだ「変わらぬ場所」で「変わらぬ味」を提供し続けるお店があります。

なぜ、その店は潰れないのか? なぜ、地元の人々はそこへ通い続けるのか?

印南敦史さんの著書『この世界の中心は、中央線なのかもしれない。』(辰巳出版)から、マニアの評価軸では語りきれない名店をピックアップ。荻窪の路地裏と、高円寺の24時間営業店。そこにあったのは、ラーメンの味を超えた「中央線らしい理由」でした。

【荻窪:中華そば丸信】地元に根ざした“普段使いの中華そば屋さん”

ラーメンが有名な荻窪では、老舗から新店までがしのぎを削っています。行列ができている店も少なくありませんが、地元民の僕はいつの時代もやっぱり『中華そば丸信』が好きなんです。

ラーメンマニアから高い評価を受ける『丸長』の流れをくむ老舗ですが、本当に重要なのは、地元の人から“普段使いの中華そば屋さん”として愛され続けているという絶対的な事実。その証拠に、伺うとかなりの高確率で、おじいさんやおばあさんが1人で中華そばを食べている姿に遭遇するのです。

荻窪駅北口から新宿を背にして10分弱進んだ、杉並公会堂のちょっと先。決してアクセスがいいわけではないのですが、それでも常にお客さんが入っているのは、ラーメンマニアだけでなく地元客も多いからです。

ちなみに以前はもっと店内が広かった(現在ふさがっている左側部分にもテーブル席があった)のですが、規模はやや小さくなってしまいました。

しかしそれでも狭苦しい印象は皆無。厨房を囲む左側のL字型カウンターには椅子が5卓並び、右側には4人がけのテーブルが。スペースがゆったりとられているので、周囲に気を使う必要はありません。

僕が注文するのは、いつも決まって「チャーシューメン」に「味付玉子」入り。昔から、『丸信』といえばこれなんですよ。

ほどなく登場したそれは、やはりスープが秀逸。風味豊かな鰹だしが最大のセールスポイントで、その風味がとにかく最高なんです。

スープをすするだけで、大きな満足感が得られる感じ。滑らかな食感を持つ中太麺も、そんなスープと抜群の相性。スープにも麺にも、もう何十年も前から変わらない印象があって、ときどき無性に食べたくなってしまうのです。

ただ、気のせいかもしれないのですが、気がつけばいつの間にやら、味玉とチャーシューが進化していたように思えます。

まず味玉、僕の記憶だと以前はここの味玉ってかためだったはずなのですが、いい具合に半熟なんですよね。箸ですっと割れるくらいのやわらかさで、それが明らかにいい効果を生み出している。

かたい玉子もそれはそれでよかったんだけど、これはこれで充分にアリです。チャーシューも昔はもうちょっと硬めだったように思うのですが、いまは箸でつまんだだけでホロっと崩れてしまうほどのやわらかさ。どちらからも向上心が感じられ、恐れ入ってしまいます。

ところで舌鼓を打っているまさにそのとき、1人で入ってきたおじいさんが、奥の席に座るや、迷うことなく中華そばを注文していました。常連さんのようで、お店の方も慣れた感じで対応しています。ほらね、そういうお店なんですよ。

■中華そば丸信
杉並区上荻1-24-22

【高円寺:タロー軒】創業50年超え、安定の24時間営業

中央線の高円寺駅からは南へ徒歩10分くらいの距離で、最寄駅は東京メトロ丸ノ内線の新高円寺。とはいえ看板に「高円寺ラーメン」と書かれていることからもわかるとおり、『タロー軒』は高円寺を代表するラーメン屋さんのひとつです。

昭和48(1973)年に埼玉の所沢で開業し、中野の野方を経て高円寺に移ってきたという歴史を持つ老舗。僕はこの高円寺のお店しか知りませんが、高校生のころから馴染みがあるので、もはや風景のような存在です。

24時間営業もうれしいところですが、この日はお客さんが少なそうな朝の10時に伺うことにしました。

お店は横に広く、奥行きのないつくり。大きく開け放たれた右半分がカウンターのみの立ち食いスタイルになっていて、その向こう側が厨房スペース。サッシの引き戸がついた左半分には、テーブル席が2卓並んでいます。

予想どおり、到着時にお客さんはいませんでしたねえ。なんだか得した気分。

カウンタースペースの左右に券売機があり、まずは左側で食券を購入。朝からガッツリ食べられるか不安ではあったものの、昔食べた記憶のある「ラーメン 半カレーセット」にしました。

お店のおばちゃんに食券を渡し、誰もいないテーブル席へ移動すると、まずは半カレーが登場。ちなみに「半」とはいうものの、量的にはほぼ1杯分です。そして数分後には、お待ちかねのラーメンが運ばれてきました。

ここのラーメンにはあっさりとしたイメージがあったのですが、背脂が浮いていたりして、意外にもこってりとしたルックス。

ところがスープは見た目以上にすっきり系で中太麺との相性もよく、全体的にバランスがとれています。重たすぎず、軽すぎもせず、午前中の胃をほどよく刺激してくれるような感じ。このクオリティのラーメンを24時間出せるというのは、やはりすごいぞ。

カレーライスは、放っておくと表面に薄い膜ができちゃうような、昔ながらの“昭和のカレー”。いたって普通ですが、こういうお店のカレーは“普通”であるべきでしょ。だから、非常に満足できたのでした。

朝からカレーとラーメンを食べ切れるかという不安はあったものの、むしろ後味はすっきりです。

ところで、「ごちそうさまでした」と食器をカウンターに戻したとき、横から「おはようございます」と声をかけられたのでビックリ。見れば、いつもお世話になっている阿佐ヶ谷の自転車屋さんでした。こんな時間に、こんなところで会うとはね。でも、そんなところもまた中央線沿線っぽい気がしたのでした。

■タロー軒
杉並区高円寺南2-16-13
この世界の中心は、中央線なのかもしれない。
この世界の中心は、中央線なのかもしれない。
この書籍の執筆者:印南敦史 プロフィール
1962年東京都生まれ。作家・書評家。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽誌の編集者を経て独立。ビジネスパーソンに人気のウェブメディア『ライフハッカー・ジャパン』にて「印南敦史の毎日書評」を連載。『東洋経済オンライン』『ニューズウィーク日本版』『サライ.jp 』などでも書評を担当し、年間700冊以上という読書量を誇る。『現代人のための読書入門』(光文社新書)、『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちPHP文庫)など読書、文章術関連書籍のほか、音楽系書籍やエッセイなども多数執筆。
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