踏みとどまった地上波でのサッカーW杯中継。五輪不正に揺れた電通が「復権」の兆し

サッカー・ワールドカップの放映権交渉が決着しました。有料ネット配信の独占になる可能性もありましたが、地上波3局も日本戦などを中継することになり、無料放送は維持されました。その背景を探り、スポーツ中継の今後を考えてみます。(画像出典:PIXTA)

WBCはネットフリックスの独占配信

2026年3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)はアメリカの動画配信大手、Netflix(ネットフリックス)が日本での放映権を独占し、地上波での放送がなくなったことに波紋が広がりました。
 
複数の報道によれば、WBCの日本向け放映権料は前回大会の5倍にあたる約150億円といわれています。日本の放送局が手出しできないほど、放映権料は跳ね上がり、各国で市場を拡大する有料ネット配信メディアが資金力を発揮しています。
 
イギリスに本社を置くDAZNも、北米、欧州、アジア、オセアニアなど世界200カ国以上でスポーツに特化したネット配信を行っているグローバルな企業です。

日本法人であるDAZN Japanの笹本裕CEOは「『FIFAワールドカップ26』の全試合を日本では唯一ライブ配信できることとなり、大変うれしく思います。DAZNが日本でサービスを開始してから来年で10年を迎え、ようやく『和製外資』としての立場を確立できつつあるのではないかと考えています」とPRしています。
DAZNが全試合生配信
全104試合の生配信をPRするDAZN(画像出典:DAZNの公式Webサイトより)
世界的なメディア企業が放映権を巡ってコンテンツ争いをする中で、DAZNの月額利用料はスタンダード契約の場合、サービス開始当初と比較しても2倍以上となる月額4200円となっています。視聴者の負担が重くなっているのも事実です。

交渉のまとめ役は五輪不正に揺れた電通

交渉のまとめ役は五輪不正に揺れた電通
交渉のまとめ役は電通(画像出典:PIXTA)
今回の放映権交渉で国際サッカー連盟(FIFA)から権利を買い取ったのは、広告代理店大手の電通です。そのうえで、権利をDAZNや地上波の放送局に売るのです。

東京オリンピック・パラリンピックではスポンサー選びを巡る汚職や競技の運営会社を決める際の談合で、電通関係者から逮捕者が出ました。その後は巨大イベントから距離を置き、今年の世界陸上選手権や東京デフリンピックでも、電通はマーケティング活動に関わっていませんでした。
 
2026年のサッカーW杯も、当初は博報堂DYホールディングスが独占的にFIFAと交渉を進めていましたが、途中からは電通が参入し、契約にこぎつけました。今回の動きはスポーツビジネス界における「電通復権」の兆しを予感させるものです。
 
FIFA 最高ビジネス責任者であるロミー・ガイCBOは、電通との長年にわたる協力関係を挙げ、「地上波放送とOTT(ネット)配信の強力な組み合わせにより、日本の全てのファンが大会を楽しめる視聴環境になる」とのコメントを発表しました。
 
電通が独自に定めた「スポーツビジネスに関するガイドライン」では、「スポーツの公共性」「公正な事業活動」が強調されています。基本方針には「スポーツ業務の遂行を通じて、スポーツに関連する事業の健全なる発展とより良い社会づくりに寄与、貢献する」と明記されており、今後はその実行力が問われます。

スポーツ中継の有料化が進む中で、その「公共性」をいかに担保するか。

業界関係者には、自社の利益ばかりにとらわれるのではなく、スポーツが文化であるという側面を改めて認識することが求められています。
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この記事の執筆者:滝口隆司
社会的、文化的視点からスポーツを捉えるスポーツジャーナリスト。毎日新聞では運動部の記者として4度の五輪取材を経験。論説委員としてスポーツ関連の社説執筆を担当し、2025年に独立。著書に『情報爆発時代のスポーツメディア―報道の歴史から解く未来像』『スポーツ報道論 新聞記者が問うメディアの視点』(ともに創文企画)。立教大学では兼任講師として「スポーツとメディア」の講義を担当している。
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