知識人は絶望、大衆は熱狂。習近平が「たった2文字」のスローガンで支持されるカラクリ

「安全」というたった2文字が、中国国民を熱狂させた。情報統制下で「わかりやすさ」を求める大衆心理と、習近平の手法。それはかつて日本を席巻した「小泉劇場」と酷似していた。(画像出典:PIXTA)

大衆に支持される習近平

中国の役人はもちろん、観光で日本を訪れている中国人も、多くは歴史や経済を勉強してきた、いわゆるインテリ層です。そして、経済的に豊かな人たちです。彼らは状況を比較的正確に判断するための知識や情報を持っています。

それでも、彼らは中国人の中の、ほんのひと握りでしかありません。ほかの大多数の中国人は貧しく、自分の生まれ育った土地しか知らずに人生を送ります。その大多数が、習近平を支持しているというのです。

中国では、大学卒は5人に1人くらいでしょう。この層、つまり世界情勢や経済を俯瞰できている人たちは、等身大の中国をある程度理解しています。しかし、残りの4人は目の前の生活の安定こそが最優先事項です。

その大多数の国民に、習近平の安全というメッセージはしっかりと届いているようで、腐敗した政治家や官僚を中国政府が厳しく取り締まると拍手喝采です。日頃から自分たちは搾取されていると感じているからです。

実際に中国では汚職が横行しています。一党独裁が70年以上続いているので、既得権益を持つ権力者の腐敗は増える一方です。

「権力必腐」。長期権力は必ず腐敗します。

日本でも2023年の終わりから、自民党の裏金問題が騒がれています。細かい事情はともかく、原因は、2012年から12年間、自民党政権が続いているからと言わざるを得ません。

それを考えると、中国の一党独裁は日本の自民党政権よりはるかに長く続き、政治家や官僚や軍は権力の上に胡坐をかいています。汚職が起きないはずがありません。取り締まっても取り締まっても追い付きません。なにしろ取り締まる側の検察、警察や軍隊でさえも腐敗しています。権力が入れ替わらない限り、解決は難しいでしょう。

現在の中国では、国民の大多数が海外の情報や、世界の中で中国がどういう位置や立場にいるのかを知りません。国が情報をコントロールしているからです。考え、判断する材料が与えられていないので、どうしてもわかりやすい言葉、わかりやすい状況に反応してしまいます。

小泉劇場と習近平劇場の共通点

2000年代初頭の日本を思い出してください。当時の日本は小泉純一郎内閣のもと、郵政民営化を行い、国民から圧倒的な支持を受けました。

「自民党をぶっ壊す!」「聖域なき構造改革!」「自己責任」「抵抗勢力」など、小泉の歯切れのいい言葉、短くてわかりやすい言葉を国民は喜んで受け入れていました。それが“小泉劇場”といわれていました。

あの頃の日本の空気に、今の中国は近いかもしれません。習近平も“安全”という短くわかりやすいキャッチフレーズを国民の胸に届け、多数の支持を受け、その支持を背景に様々な政策を決定しているともいえるのです。
日本人が知っておくべき中国のこと
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この書籍の執筆者:武田一顕 プロフィール
1966年生まれ。東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業。元TBS報道局記者。国会担当記者時代の“国会王子”という異名で知られる。また、『サンデージャポン』の政治コーナーにも長く出演し親しまれた。2023年6月退社後、フリーランスのジャーナリストに転身して活動中。大学在学中には香港中文大学に留学経験があり、TBS在職中も特派員として3年半北京に赴任していた経験を持つ。その後も年に数回は中国に渡り取材を行っている「中国通」でもある。著書に『日本人が知っておくべき中国のこと』(辰巳出版)など。
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