中国も習近平もルサンチマン
「ルサンチマン」という言葉を耳にしたことはありますか?弱者は、自分がかなわない強者に対して様々な感情を抱きます。怒り、恨み、憎しみ、非難、嫉妬……などです。
そういった感情を覚えると、やがて「強者=悪」「弱者=善」という認識となります。そのような感情や価値観を内攻的に積もらせた状態をルサンチマンといいます。
中国も、今の最高指導者の習近平もその状態だと考えると、今の中国が理解できます。様々な状況のつじつまが合うのです。
GDP世界第2位になってもなお、自分たちはアメリカやヨーロッパにいじめられていると思っている。アヘン戦争以来の諸外国が中国をいじめている状況は、今も変わっておらず、自分たちをいじめる諸外国は悪。いじめられている自分たちは善。中国、そして中国人がルサンチマンだと解釈すると、今の中国をかなり理解することができます。
紀元前から中国は大国でした。メソポタミア文明、エジプト文明、インダス文明と並び、中国文明は世界4大文明の1つで、繁栄を続けてきました。
しかし、18世紀から19世紀にかけての産業革命で、世界の勢力図が変わってきた。それまで自分たちよりも下に見ていたヨーロッパの国々がどんどん繁栄していきました。
「朱門(しゅもん)には酒肉(しゅにく)臭(くさ)れるに、路(みち)には凍死の骨有り」
これは、李白(りはく)と並び中国史上最高の詩人、“詩聖”と称されている、杜甫(とほ)の代表詩の1つです。
「朱門」とは言葉の通り、朱色の門。お金持ちの家のことをいいます。豊かな家には腐って臭うほど酒も肉も余っているのに、外の路上では貧しくて凍死した人の骨が放置されている。
つまり、中国における格差社会をうたっている詩です。杜甫が生きていた8世紀も、今も、中国には大きな貧富の差があります。
中国人のDNAに刻まれた「搾取と貧困」の記憶
現在、東京の銀座を歩いても、京都や箱根の観光地を訪れても、中国人の旅行者がたくさんいます。円安でもあり、高額な買い物や食事を楽しんでいます。その姿を見ると、中国がとても豊かな国に思えます。しかし、日本で豪遊する旅行者は、ほんのひと握りの金持ち中国人です。国内には、国から一歩も出られず、それどころか自分の住む村から一歩も出られない人がいくらでもいます。大多数の中国人は貧しく、食事も満足にとれていません。
中国の長い歴史を眺めても、豊かだった時代はほんのわずかです。唐(とう)の一時期、清の一時期くらいでしょうか。
中国はほとんどの時代が戦乱の中にありました。中国人の圧倒的多数であった農民たちは、どの時代も搾取され苦しんできました。
その苦しんできたことによるコンプレックスと、世界4大文明の1つをつくりあげた国であるプライド、両方を持ち続けている人たちなのです。
その感覚が中国人のDNAには深く刻まれているので、少しくらい豊かになっても、ルサンチマン体質は払拭できません。 この書籍の執筆者:武田一顕 プロフィール
1966年生まれ。東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業。元TBS報道局記者。国会担当記者時代の“国会王子”という異名で知られる。また、『サンデージャポン』の政治コーナーにも長く出演し親しまれた。2023年6月退社後、フリーランスのジャーナリストに転身して活動中。大学在学中には香港中文大学に留学経験があり、TBS在職中も特派員として3年半北京に赴任していた経験を持つ。その後も年に数回は中国に渡り取材を行っている「中国通」でもある。著書に『日本人が知っておくべき中国のこと』(辰巳出版)など。



