なぜ中国は豊かになっても「満たされない」のか。習近平体制を支える“強烈な被害者意識”の正体

GDP世界2位の大国・中国が、なぜ今も「いじめられている」と感じるのか。習近平を突き動かすのは、アヘン戦争以来の「屈辱」と「強烈な被害者意識」だった。中国を支配する怨念(ルサンチマン)の正体に迫る。(画像出典:PIXTA)

画像はイメージ(画像出典:PIXTA)
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GDP世界第2位の経済大国となり、軍事的にもアメリカと渡り合う強国・中国。しかし、その内面には意外なことに「私たちは今もいじめられている」という強烈な被害者意識が巣食っています。

なぜ彼らは、どれだけ豊かになっても満たされず、世界に対して攻撃的になるのか? 習近平が独裁体制を強化する本当の理由とは?

中国通ジャーナリスト・武田一顕氏の著書『日本人が知っておくべき中国のこと』(辰巳出版)より抜粋し、4000年の歴史と200年前の「ある出来事」が生んだ、中国特有のトラウマの正体に迫ります。

中国はいじめられているのか?

将来いずれかのときに、アメリカと衝突する──。

習近平の頭の中は、そのことで占められています。一人独裁体制を築いたのは、ものすごく権力欲があるから。もちろん、国内で自分の地位を守るためでもあるでしょう。しかしそれだけの理由で、身の回りを腹心で固めたわけではありません。

いつアメリカと対峙しても大丈夫なように、組織を強化しておくことを習近平は強く意識しているのです。いざというときに共産主義国である中国がひとつになるには、トップが強い権力を持ち国民を牽引していかなくてはなりません。その覚悟の表れなのです。

中国は世界第2位のGDPを誇る大国です。にもかかわらず、今でもアメリカやヨーロッパ諸国にいじめられていると思っているふしがある。

このことについて、40年近く外交官を務め、その大半を中国との関係に費やしてきた前中国大使・垂秀夫(たるみひでお)は、中国はいまだにアヘン戦争の悪夢に苦しんでいるという意見を述べています。

──習氏を理解するうえで重要なのは、こうした強烈な被害者意識だと思います。アヘン戦争以降、西洋列強や日本によって半植民地化され、虐げられてきたという意識は、歴代の最高指導者と比べても強い。そして中国が餌食となったのは、力が無かったからだと考えている。だからこそ、力への信奉を極めて強く持っているのです。
(『文藝春秋』2024年9月号・文藝春秋)

200年前のトラウマ──アヘン戦争とは

アヘン戦争は、1840年にイギリスと当時の清(しん)の間で起きた戦争です。

イギリス人は紅茶に親しむ習慣がありますが、実は寒い気候のせいでお茶を栽培できず、中国産の茶葉に頼っていました。さらに絹や陶磁器も清から輸入しています。

その一方で、清がイギリスから輸入するものはほとんどありませんでした。それでは、イギリスは貿易赤字になってしまいます。

そこで、当時イギリスの植民地だったインドで栽培した、ケシから採取したアヘンを中国に輸出しました。アヘンは麻薬です。それがどんどん中国に蔓延しました。依存性が強いために清の人たちは身体も心も蝕まれていきます。

このままでは国が滅びてしまうと考え、清国政府は欽差(きんさ)大臣として林則徐(りんそくじょ)をアヘン輸入基地となっている広東省に派遣。林はアヘンを没収。燃やして、輸入規制をかけました。

この行為に怒ったイギリスは清に戦争を仕掛け、近代兵器を持たない清は惨敗。南京条約を結ばされ、香港を割譲させられます。そんな経緯で香港は、1997年に返還されるまでイギリス領でした。

中華人民共和国が誕生する1949年まで、欧米列強や日本は、中国をいじめ抜き、搾取し続けます。中国はこうしたトラウマからいまだに解き放たれず、GDPが世界2位になっても、列強にいじめられていると思っているのです。

中国人は、もうこれ以上いじめられたくない。いじめられなくなるには、自分たちが強くならなくてはいけない。その思いが習近平にも受け継がれているのです。
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GDP2位でも「我々は被害者」。大国・中国が抱える“心の闇”
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