学歴コンプレックスが生み出した独裁者。習近平はいかにして「絶対権力」を握ったのか

権力闘争の「妥協の産物」に過ぎなかった習近平は、なぜ恩人たちを粛清し、毛沢東級の独裁者になれたのか。彼を豹変させた原動力、「鉄壁の無表情」と「意外なコンプレックス」の正体とは?(画像出典:shutterstock)

表情が変わらない強み

習近平は無表情です。日本人がテレビを通して見ていると、何を考えているのかわかりません。それは、周りの人に心の中を見透かされないようにしているからです。

すぐれた政治家が腹の中を見せないのは世界共通です。

私の知る日本の元総理大臣では、小渕恵三、小泉純一郎らは、表情から腹が読み取れませんでした。好きか好きでないかは別として、周囲に隙を見せない、優れた総理だったのでしょう。

その一方で、表情からそのときの感情が見えたのは森喜朗です。今日はご機嫌だなあ、怒っているなあと、たいがいはわかりました。森氏は立派な体躯で、ちょっと強面でもあり、失言もあり、国民にはアンチが多い。でも、近所に住んでいたら、見た目と違って気のいいおじさんタイプなのかもしれません。

習近平には、力の源泉になっていると考えられるものがあります。それは、コンプレックスです。

習近平の最終学歴は清華大学卒業となっています。北京にある国立大学で、中国では理系大学の最高峰。文系トップの北京大学と双璧をなす名門です。

ただし、習近平のこの学歴にはいくつもの疑問符が付いています。まず、理系に強い大学でありながら、彼が卒業したのは人文社会科学院大学院課程で、法学博士の学位を得ていることです。

文系なのに、北京大学を選ばなかった。学歴に関する第一の疑問です。習の入学については、コネによる推薦入学ではないかと疑う人たちもいます。また、法学博士号を取得していますが、博士論文は他人の代筆だったという報道もありました。

彼が入学したのは1975年。末期とはいえまだ文革の最中で、中国ではまともな入試が行われていない時期でした。これは同世代の学生に共通することですが、大学に入るまでにそんなに勉強をしていないはずです。

現在の習近平が権力闘争に卓越した能力を持っていることには疑う余地はありませんが、政界には清華大学や北京大学へと正規の入試で入り学んだ本物の秀才がうようよいます。そんな中で、習近平は常に学歴コンプレックスに苛まれているわけです。

その劣等感は逆に、彼のエネルギーの源泉となっているのです。
日本人が知っておくべき中国のこと
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この書籍の執筆者:武田一顕 プロフィール
1966年生まれ。東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業。元TBS報道局記者。国会担当記者時代の“国会王子”という異名で知られる。また、『サンデージャポン』の政治コーナーにも長く出演し親しまれた。2023年6月退社後、フリーランスのジャーナリストに転身して活動中。大学在学中には香港中文大学に留学経験があり、TBS在職中も特派員として3年半北京に赴任していた経験を持つ。その後も年に数回は中国に渡り取材を行っている「中国通」でもある。著書に『日本人が知っておくべき中国のこと』(辰巳出版)など。
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