
2024年の大学入学者のうち、総合型選抜は16%、学校推薦型選抜(ほとんどは指定校推薦)は35%です。少なく見積もっても30%は指定校推薦と推測できます。
しかし、今後は、総合型選抜も拡大すると見られています。その背景にあるのは、文部科学省が2025年6月に発表した大学入試要項です。この要項では、年内に行われる総合型選抜などの推薦入試においても、学科試験の実施が認められることになりました。
小論文や面接も組み合わせることが条件ですが、東洋大学の総合型選抜「基礎学力テスト型入試」では、学科試験が200点と圧倒的な比重を占めています。これに対し、小論文は10点、調査書も10点に設定されており、事実上、学科試験の成績が合否を決定づけていると言えるでしょう。この学科試験重視の総合型選抜は、今後、関東の他大学でも拡大していくと予測されます。
なぜ、この学力重視の総合型選抜が増えていくかというと、指定校推薦が岐路にあるからです。
神奈川大学は指定校推薦での入学者の退学者が増えていることを公表しましたが、他の大学でも同じように指定校推薦組の退学が目立つそうです。
なぜ? 指定校推薦入学者の退学が増えた2つの理由
なぜ指定校推薦入学者の退学者が増えてきたのでしょう。その理由の1つとして、前回の記事でも触れたように、推薦入試が拡大する中で、大学が指定校推薦を増やしたことが挙げられます。
指定校推薦の枠が広がったことで、全体的に指定校推薦での進学がしやすくなりました。しかし、その一方で、入学者の学力や学習へのモチベーションが低下した可能性が考えられます。
もう1つは、2020年から始まった高校の評定(成績)の付け方の変化です。
従来、高校の評定は定期テストの成績で決まっていました。そのため、定期テストでよい点を取れば成績は上がりました。ところが2020年からは「主体的に学習に取り組む態度」が評定に含まれるようになり、学習に取り組む姿勢も成績に反映されるようになりました。
しかし、「主体的に学習に取り組む態度」のような抽象的な要素を評価するのは難しいため、「課題を期限までに提出したか」「宿題をきちんとやったか」といった具体的な行動が点数化される傾向にあります。
その結果、真面目に課題を出していれば評定平均値4.0を取れる高校が増え、評定平均値がインフレ化してしまいました。
これにより、大学が指定校推薦で「評定4.0以上の生徒が出願可能」という要件を設けても、以前よりも学力やモチベーションが十分でない学生が入学する事態が起きてしまったわけです。
東洋大学も「指定校推薦は減らす方針」
保護者の世代からすると、「指定校推薦で進学をして退学なんて信じられない」と思われる方も多いでしょう。保護者が大学受験をした頃は、指定校推薦の枠自体が今ほど多くありませんでした。そのため、学内での選考が非常に厳しく、まさに「ザ・優等生」と呼ばれるような生徒しか、指定校推薦で大学へ進むことはできませんでした。
ところが今は、そうではありません。
個別指導塾の関係者は言います。
「本人が希望すれば、そのまま推薦をする高校もあります。1つの推薦の枠に何人かの希望者がいれば競争が起きますが、ライバルがいないと希望した生徒は選抜なしに入学できてしまいます。一方で、私立高校の多くは校内選考が厳しいですね。評定平均値5.0の生徒が希望する指定校推薦を取れないことがしばしばあります」
これに対して、ある中高一貫の私立女子校の進路指導の教師は言います。
「ありがたいことに、たくさんの大学から豊富に指定校推薦の枠をいただいております。しかし、ある指定校推薦の枠に希望した生徒が1人しかいない場合も、その生徒が推薦するに値するかをちゃんと吟味します。大学進学後、ちゃんと真面目に勉強できるか不安な面がある生徒の場合、推薦しません。枠が余ってしまうことよりも、進学後に成績不良や退学者が出ることを避けたいです」
このように「1人しか希望がなくても、きちんと吟味して選考を行う」高校は問題ありません。しかし、中には希望者が出ればそのまま推薦してしまう高校があるのも実情です。
こうした実態を踏まえ、指定校推薦の拡大にも落ち着きが見られ、指定校推薦を減らす大学も出てきました。東洋大学も「指定校推薦は減らす方針」と入試説明会でコメントをしていました。
今回、追加で取材をすると、「指定校の中には、高校側の進路実績などのために、学部学科のミスマッチを承知で入学させ、その後の成績等が芳しくない入学生が一定数存在するため、そのような高校とは信頼関係を築くのが難しい。昨年度実施した基礎学力テスト型入試での入学者の追跡調査結果がよければ、指定校推薦から基礎学力テスト型入試に募集の人数をシフトさせていきます」(東洋大学)とのことだった。