
このイベントでは神奈川大学、共立女子大学、大東文化大学、東洋大学の入試担当者が登壇し、年内学力入試を行う理由について話しました。
大学が「年内学力入試」に踏み切った理由
文部科学省が、年内の推薦入試でも国語や数学などの学科試験を課すことを認めました。それに伴い、神奈川大学では、総合型選抜に「年内学力入試」という新しい方式を導入します。これは主に学力を重視する入試で、国語と数学のどちらか1教科と英語の合計2教科の試験が行われます。この学科試験の配点は200点満点で、高校の評定平均値は50点満点として評価されます。
神奈川大学の入試事務部次長の西川朋実さんは、年内学力入試に踏み切った理由をこう話します。
「指定校推薦での入学者の退学者が増えており、危機感を持っていました。近年では指定校推薦だけでなく、AO入試で入学した学生の退学者数も増えていましたので、やはり年内入試において学力試験も課し、選抜する入試も必要だと判断しました」
指定校推薦で入学した学生の退学者は、2024年度とコロナ禍だった2020年度を比較すると145%と急増。一方、一般選抜で入学した退学者は2024年度と2020年度を比較すると110%。退学者の増加率は、一般選抜よりも指定校推薦の方が高くなっています。
高校生のオンライン塾「展展堂」の代表で、教育系YouTuberの天童辰也さんは言います。
「指定校推薦で退学者が増えているというのは衝撃的なお話でした。僕のYouTubeでも紹介すると大反響でした」
実はこの「指定校推薦で入学した学生の退学者が増えている」という現象は、神奈川大学だけではないようです。
ほかの大学にも聞いてみると、いくつかの大学から「そうですね。退学者の中で指定校推薦で入学した学生の割合は多くなっています」との回答がありました。
指定校推薦の入学者は、高校の校内で選抜された優等生のはずです。その優等生たちがどうして大学を退学するのでしょうか。
指定校推薦の増加とその背景
指定校推薦の退学者が増えたのはなぜか。
1つは、指定校推薦が増えたということがあります。
文部科学省が「多面的な選抜」を推奨している一方で、現在の一般選抜は学力試験が中心であるため、多角的な評価が難しいのが現状です。そのため、大学は推薦入試を拡大せざるを得ません。
また、大学側の事情として、年内にできるだけ多くの学生を確保したいという思惑もあります。このような状況から、すでに大学入学者の半分が推薦で入学をしています。2024年の入学者61万3453人のうち、総合型選抜での入学者は9万8520人、学校推薦型選抜では21万4549人となっています。
メディアはやたら「総合型選抜の拡大」とあおりますが、実情として推薦入試の大部分を占めるのは、実は「学校推薦型選抜」、具体的には指定校推薦です。これは、従来の総合型選抜が面接や志望理由書などを丁寧に評価する必要があり、大学側にとって非常に手間がかかるため、多くの大学がより簡便な指定校推薦を増やす傾向にあるからです。
指定校推薦は高校で校内選考し、自信を持って推薦できる生徒を送り込むことが前提なため、大学側はまず不合格にしません。要は、大学は選抜を高校に任せるわけです。そのため、指定校推薦は大学と高校の信頼関係の上に成り立っています。
一部の新興の推薦対策業者やNPOは、自分たちのビジネスの宣伝のために、「これからは総合型選抜が拡大するから既存の進学塾は全部つぶれる!」と叫んでいますが、これは事実とは異なります。実際に拡大しているのは、総合型選抜そのものではなく、高校側が選抜を行う指定校推薦であるという点を正確に理解する必要があります。
今回は、指定校推薦での退学者が増えている現象について言及しました。
その原因の1つとして、指定校推薦の拡大があります。次回はこの指定校推薦での入学者の退学がどうして増えているのか、この指定校推薦がここにきてどうなっているかについて書いていきます。
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キャリア20年の記者。『女子校力』(PHP新書)、『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)など単著は14冊。『ダイヤモンド教育ラボ』、『ハナソネ』(毎日新聞社)『マネーポストWEB』(小学館)などで取材記事を寄稿している。趣味は取材。