
性被害について私たちが持っている「常識」の多くは、実は誤解に基づいたものかもしれません。「犯人は知らない人」「女の子だけが危険」「先生なら安心」「被害に遭ったら子どもから話すはず」といった思い込みが、かえって子どもを危険にさらしている可能性があるのです。
この記事では、『子どもを守る新常識 性被害 セーフティガイド』(キンバリー・キング 著)から一部抜粋・編集し、3歳から10歳のお子さんを持つ保護者が知っておくべき「子どもの性被害にまつわる誤解」をご紹介します。
自分でトイレができるようになる頃から、本格的な性教育が始まる前までの大切な時期に、正しい知識を身につけられるよう、まずは保護者が子どもの性被害にまつわる常識をアップデートしませんか?
※ 本文中の数値はアメリカでの調査結果ですが、日本でも同様の傾向が示されていることが本書に記されています(小宮信夫 監修)
子どもの性被害にまつわる誤解の数々
誤解1. 犯人は、見知らぬ男
いいえ、そうとは限りません。子どもの性被害の90パーセントは、家族や知人といった関係者からの加害によるものです。「知らない人とは話さない」。これは、すべての子どもに教えておくべき、重要なルールです。しかし一方で、「知らない人」の危険性ばかりが強調されている面があることは否めません。
誤解2. 危険にさらされるのは、女の子
いいえ。女の子の4人に1人、男の子の6人に1人が、18歳になるまでの間に性的虐待を受けています。誤解3. 被害にあったなら、本人から話があるはず
いいえ。大半の子は、被害について誰にも話しません。児童性被害のサバイバーのうち、被害を受けたことを大人に告げる子はたったの26パーセント。行政や関係機関への報告となると、その数字は12パーセントにまで下がります。誰かに伝えることができた場合でも、そのタイミングは被害から時間が経過してからになることが珍しくありません。
誤解4. 先生なら、安心
いいえ。わたしも、子どもたちや保護者に対して、幼稚園・保育園や学校の先生は信頼できる大人である、と伝えていた時期があるのですが、これは、すべての先生に当てはまる法則ではありませんでした。先生になれば、多くの子どもとふれ合える立場、時間、機会を得られます。先生とは、子どもを狙う犯罪者にとっても魅力的な職業なのです。
誤解5. 子どもが子どもに性加害することはない
いいえ。悲しいことですが、児童性被害の事例の40パーセントは、子どもから子どもへの加害により起きています。加害者が主に狙うのは、自分より年下の子や自分より小柄な子です。被害者と加害者の双方が子どもであるこうしたケースは表面化しづらいことが多く、近年の研究では、子どもが加害者である割合はもっと高いのではないかとの見解も出されています。
誤解6. きょうだい間での性被害はありえない
いいえ。きょうだい間での性被害は、家庭内で起きる性被害としてはもっとも頻度が高く、その数は親から子への性被害の3倍ともいわれています。きょうだい間での性被害の被害者を支援する非営利団体「5 Waves」の共同設立者であり、自身も被害経験を持つ活動家のジェーン・エプスタインさんは、「きょうだい間での性被害については、口にすること自体をタブー視する傾向がいまだ非常に根強く、その被害はめったに表に出てきません」と述べています。
誤解7. 性被害防止のための教育は、幼いころからおこなわなければ意味がない
いいえ。自分のからだの大切さと守り方を知ることは、何歳の子にとっても意味のあることです。その子が2歳でも、17歳でも。時期が早いに越したことはありませんが、だからといって、遅すぎるということもないのです。いつでも、いまがタイミングです。
誤解8. からだの安全についての本を読み聞かせていれば、性被害を防げる
いいえ。本が果たせる役割は、ほんの一部。それだけで十分というものではありません。関連本を何冊か読んであげれば、子どもは加害者から身を守れるようになるし、自分のからだを大切にできるようになる。そんなふうに考えているとしたら、それは大きな間違いです。子どもの性被害を防ぐためには、包括的な戦略のもと、各家庭の実情にあわせた「からだの安全を守るための行動計画」を実行に移していく必要があります。
誤解9. ペアレンタルコントロールで、安全にインターネットを利用できる
いいえ。たとえペアレンタルコントロール(子どもが使用するデバイスに対し、利用制限をかける機能)がオンになっていても、インターネットは子どもにとって安全な場所ではありません。インターネット上には、子どもにとって不適切なコンテンツが無数に存在します。インターネットを利用する限り、そうしたコンテンツに遭遇する危険性を排除することはできません。
その上、子どもたちには、目にしたものを無邪気に真似してしまう傾向があります。インターネットで見た行為や行動を、意味もわからないままに、ほかの子を相手に再現してしまう可能性もあるのです。
性被害にまつわる誤解は他にもあります。『子どもを守る新常識 性被害 セーフティガイド』では、ここでお伝えしきれなかった“誤解”についても紹介されていますので、ぜひ参考になさってください。
皆さんには、お子さんが性に関する疑問や悩みを抱えたとき、ためらわずに相談できる存在になってほしいと思います。そのためにも、ここまでに見てきたような、誤った思いこみから抜け出しておく必要があります。
【参考】
・Finkelhor and Shattuck, 2012
・Townsend, Rheingold, and Haviland, 2016
・Bottoms, Rudnick, and Epstein,2007; Lahtinen et al., 2018
・Bottoms, Rudnick, and Epstein, 2007
・Gewirtz-Meydan and Finkelhor, 2020
・Krienert and Walsh, 2011 キンバリー・キング(Kimberly King) プロフィール
ウィーロック大学(現ボストン大学ウィーロックカレッジ)大学院教育学修士(M.S.Ed.)。自身が性被害にあったことをきっかけに、メイン大学在学中から、サンドラ・キャロン博士のアシスタントとして性被害防止活動にかかわる。幼稚園教諭として働きつつ、非営利組織「ダークネス・トゥ・ライト(Darkness to Light)」の認定ファシリテーターを務め、児童性被害予防教育の専門家として活動している。近著に『子どもを守る新常識 性被害 セーフティガイド』(東洋館出版社)がある。