感情的に怒ることをやめようとアンガーマネジメントを実践しようとしても、自分の感情や子どもの心はそう簡単にコントロールできるわけではありません。
では、どのようにすれば子どもに対して感情的にならず、かつ自分のストレスを溜め込まずにいれられるのでしょうか。
現役小学校教師である松下隼司さんは、「鬼モードを演じる」テクニックでこうした局面を乗り越えているのだとか。家庭でも役立つこのテクニックについて、『先生を続けるための「演じる」仕事術』から一部抜粋して紹介します。
ただ怒りを抑えるだけでは逆効果? アンガーマネジメントだけでは子どもの心はつかめない

非常に納得した一方で、教師は、“鬼”にも“仏”にもなる。下手したら、鬼ばっかり……と思いました。
同僚に対しては、怒りの感情のコントロールはできますが、子どもに対しては適切にコントロールできないときがあります。必要以上にすぐ怒ってしまう、強く 怒ってしまう、長く怒ってしまうのです。そこでアンガーマネジメントの勉強をして資格をとりました。(全部で20万円ほど自己投資しました)
アンガーマネジメントは、怒りの感情を適切にコントロールする手法のことをいいます。 決して、怒りの感情自体を否定していません。怒りの感情は、人間が生きる上で必要な感情の1つだからです。
でも、私はアンガーマネジメントを必要以上に意識しすぎてしまいました。
子どもの不適応行動に対して、イライラしないで穏やかに対応しようとがんばりすぎたのです。すると、まわりの子どもたちから不満が出てきました。
「先生、なぜ悪いことをやっている子を怒らないの!?」と言って、これまで私に信頼を寄せていた子どもたちが離れてしまいました。不適応行動が多い子どもの言動も改善されませんでした。また、もともと、怒りっぽい性格の私も怒りの感情を封じ込め続け、ストレスで気持ちがしんどくなってしまいました。
感情的に怒るのではなく、“鬼モードを演じる”ことのほうが効果的な理由
そこで、自分の特性に合った工夫をしました。もちろん最優先は、子どもたちの幸せで す。その工夫とは、“鬼モードになってしまう”のでなく、“鬼モードを演る(やる)”のです。具体的には、鬼みたいに厳しい対応をした直後、「……って、普通はめちゃくちゃ怒られるんやで」 と言うのです。
叱られた子どももまわりの子どもたちも、ドッキリ番組でドッキリを仕掛けられたと分かった瞬間のようなリアクションをとってくれます。
そして、「次からは気をつけてね」と、仏様のように優しく穏やかな表情で語りかけます。それまで叱られていた子どもだけでなく、まわりの子どもたちも笑顔満面になります。
このドッキリ的な対応を何回かしていると、だんだん子どもたちの反応も変わってきます。私が「……って、他の先生やったらめちゃくちゃ怒ってるところやで」などと言うと、 まわりの子どもたちが、「テッテレー!」 と、ドッキリ番組の効果音を言うようになりました。
つい感情的になってしまい、演技の鬼モードでなく、本気で鬼みたいにイライラ対応をしてしまっても大丈夫です。最後に、「……って、普通は怒るからね」と言えばいいのです。そしたら、あれ? 先生、本気じゃなかったの? と、子どもも誤解してくれます。
年々、子どもに厳しく指導することが難しくなっていますが、この対応は、「こんな時代にリスクを背負って、毅然と叱ってくれるなんて、いい先生だ」 と保護者にも好評です。
この鬼モードを演出する対応は、以前、お世話になった劇団で思いつきました。「老若 男女の心をガツンと殴って、ギュッと抱きしめる」を合言葉で活動している劇団です。(「鹿殺し」という過激な劇団名です)
私が経験してきた昭和の学校教育と違って、令和の今はガツンと叱ることも、スキンシップをとって褒めることも難しいです。しかし、このドッ キリ風の鬼・仏対応は、心の距離が近づき、私には向いています。
ガツンと叱る“鬼演出”から、大きく落差をつけて褒める“仏演出”へのギャップを、 子どもたちも喜んでくれています。
ただ頭ごなしに叱るのでなく、①子どもの不適応行動の原因や理由を把握し、②今後、できるだけ同じようなことを繰り返さないようにするにはどうすればいいか、③もし、誰かに迷惑をかけた場合はどうすればいいか、について子どもと一緒に考えることが大切です。 松下隼司さん
大阪府公立小学校教諭。令和4年度文部科学大臣優秀教職員表彰受賞。令和6年版教科書編集委員。第4回全日本ダンス教育指導者指導技術コンクール文部科学大臣賞、第69回(2020年度)読売教育賞 健康・体力づくり部門優秀賞などの受賞歴を持つ。新刊『先生を続けるための『演じる』仕事術』(かもがわ出版、2025年8月19日発売)など著書多数。voicyで『しくじり先生の「今日の失敗」』を発信中。