一般的に中学・高校受験ともに高い倍率を誇る学校は、「勉強漬けの管理型教育」というイメージを持たれがちです。しかし、渋幕が掲げるのは「自調自考の力を伸ばす」「倫理感を正しく育てる」「国際人としての資質を養う」の3つの教育目標。
一見すると堅苦しく聞こえるかもしれませんが、実際に取材で訪れた教育ライターが目にしたのは、まるで異なる光景でした。
「自由」「個性」「熱中」といったキーワードが浮かび上がり、何よりも印象的だったのが、教員と生徒の関係性です。両者は驚くほど「対等」な立場でコミュニケーションをとっています。
卒業生たちが語るエピソードから、その実像に迫ります。
※この記事は、『渋幕だけが知っている「勉強しなさい!」と言わなくても自分から学ぶ子どもになる3つの秘密』(佐藤智 著)から一部抜粋したものです。
教員と生徒は「対等」な関係
取材の際、「教員と生徒がこんな会話をするの?」と驚いたエピソードを卒業生が話してくれました。「高校生になって新たな部活動を作ろうと思い、『顧問になってほしい』と、ある先生に依頼をして引き受けていただきました。しかし、実は中学校時代の私はその先生の授業を全然聞いていなくて……。だから、あるとき先生に、『中学生のとき、授業を聞いていなくてすみませんでした』と伝えたんです。
そうしたら、先生が『あの頃の僕の授業は、僕自身が聞いてもつまらなかったと思うから仕方がないよ。今だったらもっとうまく授業ができるはず』とおっしゃったんです。びっくりして、すごく印象に残っています」
このコミュニケーションに象徴される通り、在校生からも卒業生からも、教員は自分たちと「対等に接してくれる」という声が聞かれました。
英語科の後藤先生は、教員が一方的に指示を出すのではなく、生徒に問うことが大切だと考えているといいます。
「『何をしたいのか』『何に困っているのか』をまず聞かなければいけません。先生によって接し方はさまざまですが、『生徒の話を聞く』ことは共通だと思います。
生徒自身が、悩みを聞いてもらえると安心したり、困ったときに助けてもらえる場所があると思えたりすることが大切です。話を聞いてもらえる場が、学校外にあるならばそれでもいいんです。中1の時点では、自分から『助けてほしい』や『相談したい』と伝えられない生徒もいるので、まずは教員から声掛けをしていきます」
他の卒業生は、「先生は『こうしなさい』『ああしなさい』と指導するのではなく、心配はしてくれるけれど、『どうしたいか』を問うて、最後の答えは必ず自分で出せるよう促してくれました」と振り返ります。
公立の中学校から渋幕の高校に入学した卒業生は、「先生との距離がよい意味で近く、『こんなに相談できるんだ!』と素直に驚きました。身近なお兄さん、お姉さんみたいな感覚でした。みんな敬語で話しているけれど、友達のような感覚も持てていました」と話します。
生徒のイタズラはあえて一度見逃す
中高生らしいイタズラをした際の先生の対応について、思い出を語ってくれた卒業生もいました。「教室の時計を見ながら、きっちり50分で授業を区切る先生がいたので、あるとき、授業が早く終わるように教室の時計を10分早めておいたことがありました。すると、先生は気づかずに、40分で授業を終わらせて出ていきました。
結局、担任の先生にばれて、『どんなに叱られるんだろう……』と覚悟をしました。しかし、担任の先生からは『気づいたけれど、今回は責めることはしない』といわれて。その対応から、自分のしたことがすごく恥ずかしくなりました。もうこんな子どもっぽいことはしないようにしようと思ったんです」
生徒たちは、先生との対話の中で、自ら成長していきます。そして、先生方はそれをしっかり「待つ」。
こういった対話の繰り返しにより、生徒は先生と信頼関係を築いていくのでしょう。 佐藤 智 プロフィール
横浜国立大学大学院教育学研究科修了。出版社勤務を経て、ベネッセコーポレーション教育研究開発センターにて、学校情報を収集しながら教育情報誌の制作を行う。その後、独立。全国約1000人の教師に話を聞いた経験をもとに、現在、学校現場の事情をわかりやすく伝える教育ライターとして活動中。最新刊は『渋幕だけが知っている「勉強しなさい!」と言わなくても自分から学ぶ子どもになる3つの秘密』(飛鳥新社)。



