
フジテレビの元女性アナウンサーが、中居正広氏から「業務の延長線上の性暴力」を受けた問題で、フジテレビ側の「対応のまずさ」が被害者をさらに苦しめ、退職にまで追いつめていたということが、第三者委員会の調査によって明らかになったからだ。
つまり、彼女を最初に傷つけたのは中居氏ではあるが、その後にPTSDになるほど精神的に追いつめるという「二次加害」を犯したのは、他でもないフジテレビということなのだ。CXが本事案を「プライベートな問題」と認識していることが女性Aに伝わり、「会社は守ってくれない」「会社から切り離された」として孤独感、孤立感を感じさせた(調査報告者 54ページ)
では、もし今回のような問題が起きた時、被害者から「会社は守ってくれない」と言われないために、会社は何をすべきか。今回の調査報告書からは、これだけは絶対にハズしてはいけないポイントが見えてくる。
経営陣だけで性暴力問題を抱え込まない
それは「絶対に経営陣だけで抱え込まない」ということである。港浩一氏(当時社長)は性暴力の被害に遭った女性が「絶対に誰にも知られたくない」と述べたことを受けて「情報共有範囲」を、自分と大多亮氏(当時専務)、編成制作局長(当時)という「編成部門のトップ3」とアナウンス室長、アナウンス室部長、そして産業医と健康相談室の心療内科医という7人だけに限定した(報告書39ページ)。
そう聞くと「被害者に配慮すれば仕方がないのでは」と思うだろうが、実はこういう「密室対応」が逆に被害者を傷つけることになってしまう。
この手の問題について、役員やそれぞれの部署のトップという「幹部」たちで協議をすると、どうしても「会社を守る」というバイアスが強くなって、被害者は「腫れ物」扱いになりがちだ。
つまり、このような事案には、社員のメンタルヘルスや人間関係を考慮する人事部、総務部、あるいはコンプライアンス推進室などの専門部門が必ず入らなくてはいけない。
素人メンバーだけで密室協議をすると……
しかも、フジテレビの場合、さらに事態を悪化させたのが、これら「密室メンバー」の大半が「世代的にもセクハラや性暴力に寛容なおじさん」ということだ。港氏らは「コンプライアンス」という言葉がまだなかった時代に、わが世の春を謳歌(おうか)したテレビマンで、この分野の感度が悪い。実際、調査報告書には、大多氏の会食に参加した女性から「下ネタ的な性的内容」を含んだ会話が不快だったという意見が収められている。
多くの人気番組に関わってきても、経営者としての教育や経験を重ねてきたわけではないので当然、危機管理対応も「素人」になってしまう。
今回の調査報告書でも「被害者に寄り添った視点・ケアの欠如」が起きたのは、港氏、大多氏、編成制作局長という「編成部門のトップ3」だけが対応を協議し、この3人が頭の中で「こうしておけば被害女性を刺激しないだろう」と一方的に思い込んだことが原因だと批判している。
さらに、港氏らが問題なのは、「素人」のくせに、産業医や健康相談室の心療内科医師という「専門家」らの意見に耳を傾けていないことだ。
調査報告書によれば、被害女性が休職すると、元アナウンス室長は産業医に対してこんなことを言ったという。
「本事案を上にあげたので、あとは僕たち上でやります」
つまり、これから「加害者」である中居氏の番組をどうするのか、会社として被害女性の訴えとどう向き合っていくのかという対応は「上」である港氏、大多氏、編成制作局長らトップ3が中心となって決めていくので、産業医らの世話にならないというわけだ。
実際、港氏らは中居氏の番組を継続したことについて、「被害女性を刺激したくなかったから」という説明を繰り返しているが、これは産業医や心療内科医に相談をしたわけではない。メンタルヘルスの専門知識ゼロの経営幹部が、被害者本人や専門家に聞くわけでもなく、「多分そういうことでしょう」という思い込みで判断していたのだ。