
(今回の質問)
「べらぼう」ってどういう意味?
(回答)
江戸時代の江戸の方言で、「とんでもない」「常識外れ」といった意味で、「てやんでぇ、べらぼうめ(何言ってやんでぇ、とんでもねえ奴め)」などのように使っていました。
町人や職人を中心に使われた「べらんめえ口調」
『水戸黄門』『暴れん坊将軍』『必殺仕置人』……。今ではすっかり影を潜め、あったとしてもNHKくらいですが、昔は毎日何かしらの時代劇が放送されていました。その多くは江戸時代の江戸を舞台とするもので、町人たちはだいたい「てやんでぇ」「べらぼうめぇ」などという言葉遣いをしていました。「べらんめえ口調」と呼ばれる独特の方言は、主に下町の町人や職人を中心に使われていたようです。まくし立てるような巻き舌で荒っぽい口調ですが、どこかコミカルでリズミカルな感じで、相手を脅すようなイメージとは少しかけ離れていた印象でした。
ではこの「べらぼう」とはいったいどのような意味なのでしょう。漢字で書くと「篦棒」。「篦」は「へら」と読み、竹や金属などを細長く平らにした道具のこと。折り目をつけたり、のりを塗ったりするときに使いました。「棒」は説明不要ですよね。つまり「篦棒」とはどこにでもあるようなもののことを指すように感じます。
しかし「べらぼう」の意味は「程度がひどいこと」「普通では考えられないようなこと」「ばかげていること」など。また先述した「てやんでぇ、べらぼうめ」のように、人を「バカモノ」とののしるときに使う言葉です。なんだか、へらや棒からはかけ離れているように感じます。
言葉遊びのセンスあふれる江戸時代
これを説明するにはまず「穀潰し(ごくつぶし)」という言葉の意味を説明せねばなりません。「穀潰し」というのは「ろくに働きもせずにぶらぶらと遊び暮らしながら、飯だけは一丁前に食って、いたずらに食い潰すような者」のことを指す言葉。「米などの穀物を食い潰す者」すなわち「穀潰し」というわけですね。一方、江戸時代は米などの穀物を潰してモノを貼り付けるのりを作っており、その時にヘラ棒を使いました。ここから転じて、ただ飯を食うばかりで役に立たない者を「ヘラ棒」→「べらぼう」と呼んだようです(諸説あり)。
江戸時代には「春夏冬中」と書いて「商い(秋がない)中」と読ませたり、「十三里」と書いて「やきいも」(やきいもは栗よりうまい→くりより→九里四里→合計十三里)と読ませたり、とにかく言葉遊びのセンスが半端なかった時代。江戸の民衆の間で大きく花開いた「化政文化」の真ん中に、まさに「べらぼう」たちが闊歩(かっぽ)していたのですね。江戸文化の熱量を感じます。
この記事の筆者:宮本 毅
算数・国語・理科・社会の4科目すべてを指導する塾講師。生徒のやる気を引き出し、自立学習のさらに先にある「自発学習」を目指す。著書に「はじめての中学受験」「ゴロ合わせで覚える理科85」などがある。
算数・国語・理科・社会の4科目すべてを指導する塾講師。生徒のやる気を引き出し、自立学習のさらに先にある「自発学習」を目指す。著書に「はじめての中学受験」「ゴロ合わせで覚える理科85」などがある。