“悪者”は海外ファンドだけ……?
こういう話を聞くと、「建物を手に入れたハゲタカファンドがホテル運営会社の反対を押し切って強引に計画を進めている」みたいなストーリーが頭に浮かんで怒りが込み上げる人も多いだろうが、ホテルを運営している「株式会社目黒雅叙園」がどういう会社なのかを知れば、全く違う景色が見えてくるはずだ。目黒雅叙園は、国内外で挙式サービスを展開するワタベウェディングの子会社なのだが、そのワタベウェディングはコロナ禍で稼ぎ頭の海外挙式がなくなって債務超過に陥った。そこで外用鎮痛消炎剤「バンテリン」や胃薬「キャベジン」で知られる「興和」の完全子会社となった。
医薬品事業や商社のイメージが強い興和だが、実はホスピタリティ事業にも注力しており、その中でも近年特に力を入れているのが「高級ホテル」だ。「エスパシオ」というラグジュアリーホテルブランドを持ち、ハワイのワイキキと箱根で高級ホテルを運営している。そして実は雅叙園東京が休館する2025年10月1日、新たな高級ホテルがオープンする。
「エスパシオ ナゴヤキャッスル」。2020年まで営業していた旧ホテルナゴヤキャッスルを解体して、その跡地に建てられたもので、名古屋城と調和した石積みの建物や、1泊300万円程度のスイートルームからも、外国人富裕層を狙っているのは明らかだ。
これらのホテルの運営元企業であるエスパシオエンタープライズの本中野真社長は、もとはと言えば目黒雅叙園の社長として2017年に「ホテル雅叙園東京」へリニューアルした人物だ。そして、現在の株式会社目黒雅叙園の取締役にいる田渕浩之氏も興和からの出向で、ホスピタリティ事業部長から取締役になった人物だ。
つまり、ホテル雅叙園東京は、興和が力を入れる高級ホテル事業の中でも戦略的に極めて重要な位置付けの施設なのだ。それを海外ファンドが高級ホテルへとリニューアル工事をしてくれるのは渡りに船というか、願ったりかなったりなのだ。つまり、今回の騒動は海外ファンドだけが悪役のように伝えられているが、実際のところは、ホテル側も「共犯」である。
ホテルの突然の休館・閉鎖は増えていく
このような「結婚式場として有名なホテル」の突然の休館や閉鎖は今後どんどん増えていくだろう。ワタベウェディングが債務超過に陥ったように、人口減少の日本では結婚式ビジネスは先細りだからだ。しかも、日本人の給料は30年上がっておらず、これからも上がる兆しはない。そうなるとホテルも営利企業なので「貧しい日本人」より「富める外国人」にシフトしていくしかない。残念ながら、これが毎年鳥取県の人口と同じ53万人の日本人が減少していく日本の「リアル」なのだ。
この記事の筆者:窪田 順生
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経てノンフィクションライター。また、報道対策アドバイザーとしても、これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行っている。