漫画、アニメで大ヒットした『【推しの子】』が、ついに実写化されました。2024年11月28日から「Amazon Prime Video」で配信がスタートし、まずは1~6話が配信。注目の高い作品となり、SNSでも賛否両論が書き込まれています。
今回、漫画・アニメも見た上で実写版ドラマ第6話までを見た元テレビ局スタッフの筆者が、実写版『【推しの子】』の魅力や見どころをネタバレなしで紹介します。
実写版『【推しの子】』は漫画・アニメと別物!?
まず、実写版『【推しの子】』は、これまで発表されている漫画・アニメ作品とは「別物」として視聴することをおすすめします。ストーリーや設定が大幅には改変されていませんが、時間の制限もあり漫画やアニメのように丁寧な説明はありません。省略されている部分もあり、漫画やアニメの熱狂的なファンからすると物足りなさを感じる可能性大。SNSをのぞいてみると、その省略の仕方が嫌だったという原作ファンも見かけます。
そういった事情を考えると、漫画やアニメを見ているファンは一度頭をリセットして、実写版『【推しの子】』を新たな作品として見るのがおすすめ。映像作品としては、配信ドラマらしく予算もかけられダイナミックに仕上げられているので、ぜひとも最後まで(執筆時点では6話までだが)見てほしいからです。
また、そもそも漫画やアニメを見ていない人は間違いなく見るべき作品。実写化されることで、原作のおいしい部分を丁寧に脚本に落とし込んでいる印象で、1つの作品としてかなりのクオリティーを誇ります。近年、Netflixを中心として良質な配信ドラマが多いですが、『【推しの子】』もまた傑作だからです。
齋藤飛鳥は星野アイを演じきれているのか?
そんな実写版『【推しの子】』ですが、まず注目すべきはベタですが人気キャラクター・星野アイを演じる齋藤飛鳥さんです。齋藤飛鳥さんと言えば、乃木坂46メンバーとして活躍した、正真正銘の元スーパーアイドル。その齋藤飛鳥さんが、『【推しの子】』で「究極のアイドル」として崇められるアイを演じるということで、配信前から大きな注目を集めていました。
そもそも、齋藤飛鳥さんは、乃木坂46時代はアイのような王道アイドルではありませんでした。筆者は前職時代に齋藤飛鳥さんと何度か仕事をしたことがありますが、どちらかと言えば本音でスタッフにもファンにもぶつかるタイプの印象。アイはうそをつきながら、アイドルを演じているキャラクターです。同じアイドルとは言え、アイとは違ったタイプで人気だった齋藤飛鳥さんが、どうやって王道アイドルを演じるのか非常に興味深いところでした。
結果として、原作に近いアイを繊細に演じることに成功。特に乃木坂46の卒業からだいぶたっていますが、ダンスにもキレがあり原作ファンも納得できるアイを演じています。
特に見どころは、作中グループ・B小町のセンターとして、大舞台でパフォーマンスするシーン。さすがアイドル時代に数々のステージにたっているだけあり、画になる表情とダンスを披露しています。ドラマの序盤は齋藤飛鳥さんの出演シーンが多いのですが、想像以上に完成度の高いアイを演じて作品を盛り上げています。
特に注目すべきは櫻井海音の「声」
主役級の活躍を見せる齋藤さん演じる・アイですが、原作通り早々に亡くなります。そして、ドラマはアイの隠し子である双子のアクアとルビーがメインに。アクアは櫻井海音さん、ルビーはアイドルグループ・=LOVEの元メンバーである齊藤なぎささんが担当しますが、2人ともに適役です。まず、昨年あたりから俳優として実力を伸ばしている櫻井さんは、驚きの演技を見せています。『アオハライド』(WOWOW)で主演を務めていますが、大作での単独主演は初。筆者も過去に当サイトの記事で「2024年下半期ブレーク必至の若手俳優」として櫻井さんを紹介していますが、端正なルックスと繊細な演技ができる俳優です。
今回の『【推しの子】』でも、影のあるアクアを見事に演じているのですが、注目すべきは「声」です。櫻井さんはMr.Childrenのボーカル・桜井和寿さんの長男として知られており、親譲りなのか天性の声の良さを持っています。アクアは、場面によりコロコロと表情を変えるのですが、明るい声でも暗い声でも引き込まれる魅力があります。演技はまだ荒削りなところがあるものの、櫻井さんの声は中毒性があり一級品。今後も、ほかの俳優にはない櫻井さんの武器になることでしょう。
また、第6話までは齊藤なぎささんの活躍が少ないですが、齋藤飛鳥さんと同じで元アイドルがアイドル役を演じるおもしろさが今後は見られそうです。女性アイドルというのは特殊な存在で、経験した人にしか分からない苦悩や思いがあるもの。齊藤なぎささんが、どんな形でトップアイドルを目指すルビーを演じるのかは、映画版まで続く楽しみになりそうです。
脇役にも豪華な俳優が勢ぞろい!
加えて、原作ファンも必見なのが、有馬かなを演じる原菜乃華さんです。かなは、元天才子役でルビーと共にB小町を結成する女性俳優。気難しいキャラクターですが、演技派の原さんが丁寧に表現しています。そもそも原さんは、2009年にドラマで子役として芸能界デビューした経歴の持ち主。下積みが長く演技派と呼ばれ続け、2020年10月に公開された映画『罪の声』の演技で注目されます。かなと似た境遇の持ち主の原さんはまさにハマり役で、コミカルなキャラクターも原さんのかわいらしいビジュアルがマッチしています。
そのほかにも、インフルエンサー・MEMちょ役のあのさん、生真面目な演技派女性俳優・黒川あかね役の茅島みずきさん、コワモテ芸能プロダクション社長役の吉田鋼太郎さん、覆面筋トレ系YouTuberぴえヨン役のマヂカルラブリー・野田クリスタルさんなど、ハマり役が多数。さらに、戸塚純貴さん、要潤さん、金子ノブアキさん、成田凌さん、安達祐実さんといった、実力派俳優を取りそろえているところも魅力です。
映像美と細かいこだわりで漫画とアニメにはない魅力を作り出す
ここまで役者陣の魅力を解説しましたが、最後に漫画とアニメにない魅力を紹介します。なんといっても、実写版『【推しの子】』の見どころは美しい映像です。配信作品は民放ドラマよりきれいな映像を堪能できる作品が多いですが、『【推しの子】』も期待を裏切りません。アイが出演したコンサート会場の映像は臨場感たっぷりで、そのほかにも各場面にそった色彩とライティングの作り込みが非常にきれいです。随所で映像美を感じられ、実写ならではの魅力を原作ファンも楽しめるでしょう。
また、細部までこだわっていて、作中で見られる漫画『東京ブレイド』の実写ドラマや、アクアが参加する恋愛リアリティーショー『今からガチ恋始めます』の作り込みが完璧。特に『東京ブレイド』は原作での舞台からドラマへと設定こそ変わっているものの、映像の作り込みにおけるこだわりを感じられます。続きが気になるほどの出来栄えで、スタッフ陣の本気度を感じられる部分です。予算が潤沢な配信ドラマだからか、こういった細かいこだわりを楽しめるのも魅力です。
さらに言えば作品のテンポも良く、各話で主要な登場人物がピックアップされる演出となっています。それぞれの主要キャラクターの特性もつかみやすく、漫画やアニメを見ていない人に親切な設計です。ドラマとして次回につなげる構成もスムーズで、ストレスなく第6話まで一気見できる作りとなっているのもうれしいポイントです。
さて、現在は第6話までしか配信されていませんが、2024年12月5日の21時から第7話と第8話が配信予定。さらに、12月20日より実写映画『【推しの子】 The Final Act』が劇場公開されます。漫画の実写化としてレベルが高く、第6話まで見た感想では、歴史に残る作品になる予感がする『【推しの子】』。漫画、アニメのファンで食わず嫌いをしている人がいるなら、はじめに書いたようにまったく別の作品だと思ってでも見ないと、損をすることになると思います。
この記事の筆者:ゆるま 小林
長年にわたってテレビ局でバラエティ番組、情報番組などを制作。その後、フリーランスの編集・ライターに転身。芸能情報に精通し、週刊誌、ネットニュースでテレビや芸能人に関するコラムなどを執筆。編集プロダクション「ゆるま」を立ち上げる。