婚活の手段として「マッチングアプリ」がすっかり普及した現代。出会いの多様化により、まるで就職活動のように婚活をする人も増えている。アプリ婚を成功させた女性に取材をすると、複数のマッチングアプリで複数の相手とデートをする“分散恋愛”の実態が明らかになった。
「アプリは複数利用」「デートは同時に5人」
「マッチングアプリは複数使って、同時進行で5人とデートをしていました」こう語るのは、ナツコさん(仮名/28歳)だ。彼女はマッチングアプリで出会った男性と先月婚約した。婚約者は同時進行でデートをしていた男性の中の1人だった。
「『30歳までに絶対結婚するぞ!』と決めて、恋活や遊び相手がいるマッチングアプリではなく、本気度の高い婚活アプリを複数ダウンロードしました。次付き合う人と結婚したいと思ったので、いいねや会うハードルは低く、それでも付き合うまでは慎重でした」
メッセージのやりとりはほどほどに、気になる男性にはすぐに会って、デートを重ねたという。ナツコさんは会社員のため、土日や平日のディナータイムに、スケジュールを前もって決めながら複数の男性に会った。
「実は、5人の男性の中で、最も“優先度”が低かったのが今の婚約者なんです。なぜ彼と付き合うことになったのかというと、単純に職場が近くてスケジュールがよく合ったから。デートを重ねているうちに『この人いいな』と思うようになりました」
ナツコさんいわく、彼は「タイプではない」という。だけど彼は“結婚向き”の男性だと感じたそうだ。
「私がこれまで好きになった男性は、金や女性にだらしない、いわゆる“クズ”っぽい人でした。本能的には安定しないそういう人に惹かれるんです。彼はそういう要素はなく、タイプかといえばそうではない。だけど、自分の恋愛パターンを結婚に持ち込むとうまくいかないのは分かっていたので、穏やかな彼との結婚を考えるようになりました」
ナツコさんは、彼と出会う前、マッチングアプリでさまざまな男性と恋愛を繰り返していた。しかしどれもうまくいかず、すぐに破局。「恋愛でぼろぼろになった経験があるからこそ、婚活は冷静に相手を見極めることができた」と語る。
婚活で4年間で1000人の男性とデート
ナツコさんのように、複数の男性と同時に重ねた女性はほかにも。「4年間で1000人以上の男性と会いました」
こう語るのは、トモミさん(仮名/29歳)だ。
「マッチングアプリや合コン、婚活パーティーなど、ありとあらゆる出会いの場に行きました。平日は仕事をして、休日にブランチ、ランチ、ティータイムで3人。その中でもう一度会いたいと思った人とディナーへ、という感じで1日最大4人とデートをしました」
トモミさんは婚活中「私の夫になる人の条件」と書いたメモを手帳に挟み込んでいたという。条件を聞いてみると、変な“ニオイ”がしない、カルト宗教や怪しげな新興宗教を信仰していない、など、かなり細かいものだ。
「11個の条件がありました。大きな条件を決めず、理想ではなく、細かくても自分が相手と生活するうえで譲れない条件を設定しました」
婚活中、手帳の条件と照らし合わせながら相手を探したというトモミさん。しかし、トモミさんの現在の夫は、マッチングアプリや婚活パーティーで出会った男性ではなく、職場の男性だった。
「最終的にマッチングアプリと全く関係ない男性と結婚しました。『婚活で1000人に会った意味ないじゃん』って友達に言われたけど、いろいろな人とデートを重ねて、自分の条件を決めていったことが間違いなく生きています。条件に合う人が目の前に現れた時、すぐに結婚に踏み切れたから」
トモミさんや前述のナツコさんの話を聞いていると、婚活はまるで就職活動のように思える。最初から本命の1人に絞ることなく、複数の男性とデートを重ね、その中で自分に合った結婚相手を探すというスタイルがアプリ婚成功の秘訣(ひけつ)のようだ。
まるで就活。アプリ成婚のコツは分散恋愛
こども家庭庁が7月に実施した調査によると、40歳未満の既婚者のうち、4人に1人はマッチングアプリを介して結婚相手と出会ったと判明した。調査は、全国の15~39歳の既婚者男女2000人を対象にインターネット上で実施されたもので、出会いのきっかけは、「マッチングアプリ」が25.1%で最多、次いで「職場や仕事関係」が20.5%、「学校」が9.9%となった。今やマッチングアプリは恋愛や結婚になくてはならないツールになりつつある。前述したナツコさん、トモミさんは複数のマッチングアプリを使い、複数の男性とデートを重ねていた。ナツコさんは「マッチングアプリで婚活を成功させるコツは1人に固執しないこと」と語る。
「1人だけだと、この人とダメになったら……って余裕がなくなる。それって相手にも伝わるので、うまくいかなくなるケースが多かったんです。だけど分散して恋愛をすれば、この人がダメでもこの人がいるって思える。だから情熱的な恋愛は婚活には不要だと思う」
婚活に情熱的な恋愛は不要――。
最愛の男性との結婚を目指す女性たちにとって、ナツコさんの言葉は残酷なように聞こえるが、これこそがアプリ婚成功の現実かもしれない。
結婚(入社)に向けて、いいね(エントリーシート)を手当たり次第に出し、デート(面接)の過程で相手(企業)を知り、期限(4月)までに結婚(内定)を決める。たとえそれが第一志望ではなくとも――。
婚活は就活化している。
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この記事の筆者:毒島 サチコ プロフィール
ライター・インタビュアー。緻密な当事者インタビューや体験談、その背景にひそむ社会問題などを切り口に、複数のWebメディアやファッション誌でコラム、リポート、インタビュー、エッセイ記事などを担当。