「耳をふさぐほど音が苦手」「学校でイヤーマフが必要」聴覚過敏の子が一人でつらい思いをしないために

大きな音やざわめきが苦手な聴覚過敏の子どもは、イヤーマフなどをつけて学校生活を送ることがあります。特別支援保育・教育が専門の鶴見大学短期大学部 短期大学部 保育科 准教授の河合高鋭先生に、聴覚過敏の児童が学校生活でどのような困りごとを抱えるのかを伺いました。

聴覚過敏の子は学校生活でどんなことに苦手さを感じる?

感覚過敏の一つである聴覚過敏。聴覚が過敏に働くことで、音が響いたり、音割れしたりして聞こえる症状があります。

赤ちゃんの泣き声や掃除機といった特定の音や、学校の休み時間の雑音などに苦手さを感じ、音に悩まされると当事者は耳をふさいだり、隠れたりといった行動を示すことが多いようです。
耳をふさぐ子
耳をふさぐ子
原因は明らかにされていませんが、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)といった発達障害のある人に多くみられ、国立障害者リハビリテーションセンターによると、発達障害のある人のうち、約55%は聴覚過敏に悩まされていることが分かっています。

このほか、てんかんや片頭痛など脳の神経細胞が過敏に働く方や、ストレスの多い環境が続く状況でも症状がみられるケースがあります。

鶴見大学短期大学部  短期大学部 保育科 准教授の河合高鋭先生は、「聴覚過敏の児童は学校生活を送る中で、運動会や合唱コンクールなどの行事、音楽の授業などでハードルを感じることが多い」と語ります。

「普段は聴覚過敏の児童のために教室のスピーカーのボリュームなどを調整していても、運動会や合唱コンクールといった行事ではざわめきの中で進行する一面があります。また、音楽の授業では合唱などによる音の刺激が強く、聴覚過敏の児童は耳をふさぐなどして症状を訴えることがあります」

聴覚過敏の症状を和らげる方法

聴覚過敏の児童が症状を和らげるためには、どのような方法があるのでしょうか。河合先生はまず、「見通しをつけることも一つの選択肢となる」といいます。

「運動会でダンスをする場面では、どれくらいの時間がかかると次の展開に進むのか、順序や成果物を伝えることが大切です。例えば、動画を撮影して全体的な動きや一人称の視点を視覚的に見せて『あなたが今やっているプロセスには、こういう完成図があるんだよ。ここまで完成したら終わるよ』と教えてあげる。そうすることで児童は時間を構造化でき、安心して行事に臨めるケースがあります」

また、修学旅行や遠足といった予測できない事態が起きる場面では、本人が「助けてほしい」と訴えやすい環境を作ることが大切だといいます。

「学校教員と信頼関係を築き、『今日は聴覚過敏がひどいので、ホテルで休みたい』などと話しやすい環境を整えることが重要です。言葉で伝えられないタイプの子は、つらい状況に陥ったらどういう表現をするのか、事前に共有しておくといいでしょう。児童の顔色や動作で配慮できる場合があります」

最近は、聴覚過敏の児童が学校でイヤーマフや耳栓、ノイズキャンセリングイヤホンを装着し、音の刺激を和らげながら生活を送るケースも増えてきました。
イヤーマフ
イヤーマフ(画像出典:Amazon
「イヤーマフを一日中つけるかどうかは、聴覚過敏の程度によります。座学が中心の授業であればノイズが生じにくいため外して参加する子もいます。外に出てしまえばヘッドホンで音楽を楽しむ人はたくさんいますが、学校内では目立つためクラスメイトからからかわれるケースもあります。大切なのは、イヤーマフを装着するほうが過ごしやすいんだと周囲から理解を得ることです」

と河合先生。「学校教員から説明する機会を設けるなど、配慮することも必要だ」といいます。

このほか、「苦手な音があります」と書かれた「聴覚過敏保護用シンボルマーク」を持ち歩く方法もあります。

「そういうタグを持っていると、『何らかの配慮が必要なんだ』と会話を交わさずとも察知できるため、互いに理解しやすいと思います。私も片耳難聴の方が『右側が聞こえづらいです』というタグを持っていたので、配慮して左側から話しかけたことがありました」

自分の苦手さを初対面の相手に伝えるのは難しいもの。学校はクラスメイトだけでなく、他学年が交流する機会もあります。どうすれば自分の苦手さを伝えられるか、表現方法を探すのも解決方法の一つかもしれません。

社会で広がる聴覚過敏への理解

聴覚過敏への理解は、社会でも広がっています。2019年からは、ドラッグストア「ツルハドラッグ」の一部店舗で、BGMを止めたり、照明を暗くしたりするクワイエットアワーを導入。2024年には世界自閉症啓発デーに合わせ、埼玉県さいたま市にある映画館「MOVIXさいたま」「イオンシネマ大宮」で、迫力のある音が苦手な人のためにイヤーマフの貸し出しを約1カ月間実施する取り組みもありました。

「海外では聴覚過敏の方たちがスーパーのクワイエットアワーに買い物をするケースもあります。日本ではまだ実際に恩恵を受けている事例は少ないと思いますが、企業が積極的にこういった取り組みを実施することで、聴覚過敏を考える機会は広がっていると思います」

日常生活を送る上で、切っても切り離せない音の刺激。聴覚過敏の子どもたちが穏やかな生活を送るためには、まずは大人が理解に向けて一歩踏み出す努力が必要なのかもしれません。

<参考>
発達障害のある人の感覚の問題の実態が明らかに(2023年、国立障害者リハビリテーションセンター研究所調べ)
 
この記事の執筆者:結井 ゆき江
中学受験雑誌の編集者として勤務したのち、フリーランスの編集者・ライターとして独立。教育や生き方、地域情報などを中心に取材・執筆を行う。グレーゾーンの小学生をサポートした経験も。
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