「合唱の練習がつらい」「洋服のタグが当たると痛い」学校生活で“感覚過敏”の子どもが抱える困難とは

感覚過敏に悩む子どもたちは、どのような学校生活を送っているのでしょうか。特別支援保育・教育に長年携わってきた鶴見大学短期大学部 短期大学部 保育科 准教授の河合高鋭先生に、感覚過敏の症状について伺いました。

感覚過敏の原因は明確になっていない

「大きな音が苦手で耳をふさぐ」「洋服のタグが肌に当たると痛みを感じる」「光の変化で目が見えにくく感じる」——。これらの症状は、視覚・触覚・聴覚・嗅覚・味覚、そして体のバランス感覚などが過敏に反応してしまう「感覚過敏」に当てはまります。
聴覚過敏
聴覚過敏の症状を伝わりやすくし、同時にその意味の周知を目的として設計された聴覚過敏保護シンボルマーク
感覚過敏とは病名ではなく、五感やバランス感覚が過敏になっている症状のこと。2013年に発表された米国精神医学会の精神疾患の診断基準・診断分類(DSM-5)から「感覚の異常」という文言で表現されるようになってきました。

鶴見大学短期大学部  短期大学部 保育科 准教授の河合高鋭先生は、感覚過敏の原因について次のように解説します。

「感覚過敏が発症する原因は明確になっていませんが、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)といった発達障害を持つ方に多く見られます。また、脳の神経細胞が過剰に働く方やストレスを感じる環境が続く状況でも、感覚過敏の症状に悩むことがあるようです。中には、複数の感覚過敏があるお子さんや、逆に感覚の反応が鈍い『感覚鈍麻』の症状を持つ方もいます」

発達障害を持つ方は感覚過敏の症状に悩むことが多く、発達障害を持つ人のうち、約55%は聴覚過敏に悩まされていることが分かっています(国立障害者リハビリテーションセンター『発達障害のある人の感覚の問題の実態が明らかに』2023年調べ)。

「感覚についてのヒアリングは、児童精神科の診察でも必ず入る項目です。感覚に問題を抱える方は比較的多く、本人も周りも気が付かずに生活していると2次障害につながりやすいので注意が必要です」

大きな音が苦手、会話が聞き取りにくい。聴覚過敏の子どもが抱える困難

感覚過敏を持つ子どもたちは、どのような症状に悩むのでしょうか。発達障害のある人の約半数が悩むという聴覚過敏では、次のような苦手さを抱えています。

・泣き声や電子音など、特定の音が苦手
・複数の人が話していると、会話の聞き取りが困難になる
・大きな音が苦手    など

「このような症状があると、子どもたちは両耳を手で押さえたり、隠れたり、その場から逃げ出したりするようになります。これらの行動は家族にだけ見せるのではなく、保育園や幼稚園、学校にいるときでも変わりません。保育士からの連絡帳や学校の教員から指摘されて症状に気が付くことも多いと思います」

学校生活が始まると、聴覚過敏の子どもたちは特に音楽の授業や合唱コンクール、休み時間などでつらさを感じることが多いといいます。
 
発達障害の僕が 輝ける場所を みつけられた理由
発達障害の僕が 輝ける場所を みつけられた理由

「発達障害を公表しているモデルの栗原類さんは、『アメリカでは正しい音程で歌うことに重点をおかれていたので気にならなかったが、大きな声で元気に歌うことは怒鳴るような歌声に聞こえてつらかった』と日本で過ごした保育園時代を振り返っています。これは聴覚過敏の一例と言えるでしょう。音のボリュームだけでなく、歌声自体が苦手なお子さんもいて、その症状はさまざまです」

苦手な環境では普段よりも感覚過敏の症状が大きくなることがあり、悪循環が生じるきっかけとなっています。

強い光、人との接触が苦手。さまざまな感覚過敏の症状とは

感覚過敏には、ほかにも視覚、嗅覚、味覚、触覚過敏といった種類があります。

「視覚過敏のある子は強い光やチカチカとした光が苦手で、視界がぼやけたり、奥行きが分かりにくくなったりする症状を抱えています。学校生活では体育の授業などで外に出る際に、明暗の変化を感じて目を覆ったり、細めたりしてやり過ごすことが多く、症状によってはサングラスを使用して緩和させるケースがあります」

味覚過敏では、食感や味に苦手さを感じて、給食などで嘔吐するケースがあるそう。嗅覚過敏は、タバコや柔軟剤、香水といった特定の臭いが苦手で、吐き気を感じることも。

「昨今はスメルハラスメントという言葉が登場し、柔軟剤などの香りに苦手さを抱える人への理解が社会でも広がってきました。しかし、嗅覚過敏に悩む子どもたちは幼いころからその症状を抱えているため、本人が違和感を覚えるきっかけが少なく、発覚が遅れることが多いです」

触覚過敏は、「洋服のタグや縫い目が皮膚に当たるのが苦痛」「水や粘土などが苦手」「人と接触することが苦手」といった症状に悩むことが多いといいます。現在は触覚過敏に悩む当事者が「タグなし・縫い目外側」の洋服ブランドを立ち上げるなど、新しい取り組みが見られます。

「もともと感覚が鋭い乳幼児期は、感覚過敏かどうか分かりにくい場合が多いでしょう。乳幼児期に身体的接触を嫌い、抱っこするとのけぞる反応を示していた子が、成長とともに感覚過敏などの症状を訴えるケースもあります。成長とともにどういった反応を示すか、よく観察するようにしましょう。

いずれも、感覚過敏の子どもたちの不安に寄り添い、環境を整えることでうまくバランスを取りながら生活を送れることが多いです。子どもがつらそうにしている場合は、その状況をよく観察し、まずは小児科に相談してみるのがよいと思います」

感覚過敏は生まれつき持っている症状のため、大人が気付きにくい一面もあるようです。まずは生活の中でどのような困りごとがあるか、子どもたちをよく観察することが大切なのかもしれません。

<参考>
発達障害のある人の感覚の問題の実態が明らかに(令和5年2月 国立障害者リハビリテーションセンター)
 
この記事の執筆者:結井 ゆき江
中学受験雑誌の編集者として勤務したのち、フリーランスの編集者・ライターとして独立。教育や生き方、地域情報などを中心に取材・執筆を行う。グレーゾーンの小学生をサポートした経験も。
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