大企業ならではの「美容室ビジネス」
なぜIWASAKIが約4000名(パート含む)という従業員に、それなりの給料を払って、社会保険完備、厚生年金、有給という労働環境を提供できるのかというと「大企業」だからだ。全国にチェーン展開している店舗は、先ほどのような「コスパ」を売りに地域内の多くの客をとっているので利益を上げることができる。また、本業だけではなく、シニアの女性客が多いという特性を生かして店内に広告やサンプリングなどのサイドビジネスにも力を入れる。スケールメリットを生かして「美容室ビジネス」を成立させているのだ。
だから、690円や980円のカット代でもちゃんと利益が出る。個人経営のヘアーサロンでそれをやってしまうと、単に美容師の人件費を削って出血大サービスをしているだけだが、大企業であるIWASAKIの場合はその安さでもちゃんと利益を出して、従業員に給与や社会保障の形で還元をすることが可能なのだ。
「町のヘアーサロン」大淘汰時代へ
もちろん、これは働いている美容師にとって良いことばかりではない。IWASAKIに入社すると短い時間で効率的にカットする技術を身に付けることが求められるという。つまり、個人経営のサロンで雇われていたり、自分でサロンを開業していた時には味わうことのできなかった「安定」と引き換えに、ドラマに出てくるようなカリスマ美容師とかけ離れた「サラリーマン美容師」になるということなのだ。
いずれにせよ、毎年50万人の人口が減っている「縮むニッポン」で、27万なんて数の美容室が存続できるわけがない。
そう遠くない未来、IWASAKIに代表するような「安さを武器に成長する大企業」と、国内外で独自のポジションを築くカリスマ美容師という2極化が進行して、「町のヘアーサロン」が大淘汰(とうた)されるような時代がくるのではないか。
この記事の筆者:窪田 順生
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経てノンフィクションライター。また、報道対策アドバイザーとしても、これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行っている。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経てノンフィクションライター。また、報道対策アドバイザーとしても、これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行っている。