コーヒーを飲んでいた筆者は、「そこまで言うなら離婚すればいいのに……」と内心思っていたが、その女性はさんざん愚痴を吐いた後、ため息交じりにこう言ったのだ。
「でも、『子どもがかわいそう』だから離婚はしない」
その言葉で、夫の愚痴大会は終了した。カフェでの話を盗み聞いた限り、女性の夫婦関係は完全に破綻しているが、子どものために離婚を踏みとどまっているようだ。
女性が発したこの「子どもがかわいそう」という言葉は、現在SNSをにぎわせているワードでもある。
子育て世代が投げかけられる「子どもがかわいそう」
8月27日、俳優の東出昌大さんが、元俳優の松本花林さんとの再婚を発表した。発表に際し、SNS上では祝福コメントも多数挙がったが、批判的なコメントも散見された。批判の中には、元パートナーである杏さんとの間の子どもや、これから生まれてくる子どもに関するものもあり、「(今いる・これから生まれてくる)子どもがかわいそう」といった意見が多い。「子どもがかわいそう」と口にする人は、一体、“誰目線”でコメントしているのだろうか。
離婚も結婚も当事者間で決めていることであり、第三者がとやかくいう権利などないはずだが……そういったコメントにかぎって、多くの共感のリプライがついていることにゾッとしてしまう。
しかしリサーチしてみると、子育て世代の間では、「子どもがかわいそう」と第三者に言われるケースが筆者の想像以上に多いようで、周囲にコメントを求めたところ、実際に言われた経験があるという人は複数名に上った。以下は、そのエピソードを抜粋したものである。
家族から「1歳から保育園に入れるなんて、子どもがかわいそう」
共働きで働くAさんは、息子を1歳で保育園に入れることを検討していた。しかし実の母親から「1歳から保育園に入れるなんて子どもがかわいそう」だと言われたという。Aさんは「今まで保育園に入れるのがかわいそうだと思ったことはなかったけど、母親のひと言でちょっとかわいそうなのかな……と思うようになった」と語る。Aさんの母親は専業主婦で、“幼稚園派”だという。友人から「塾に入れないなんて、子どもがかわいそう」
子どもを持つBさんは「小学校に上がっても、うちは塾は考えていないかな」と何気なく友人に話したところ、友人から「今どき塾に入れないのは、子どもがかわいそうだよ」と忠告された。友人は自身の子どもに、塾をはじめ、たくさんの習い事をさせているという。Bさんは友人に対し「自分がたくさん習わせているからってそれが正解だと思わないでほしい」と本音を漏らす。SNS上で「離婚や再婚をしたら、子どもがかわいそう」
最後はSNS上でよく見かけるコメントだ。夫婦関係が破綻している人に対して「離婚したら(再婚したら)子どもがかわいそう」と、アドバイスする人は多い。今回の東出さんの時のように、離婚や再婚した人に関しては、強い口調で批判の声が飛び交う。誰かに「子どもがかわいそう」と指摘される場合、AさんとBさんのように、「自分がやってきたことが正解」だと相手の意見を“押し付けられる”事例は多いのかもしれない。
「子どもがかわいそう」は誰が、どんな立場から言っているのか
立ち返って、東出さんに対する批判コメントを見返してみる。「子どもがかわいそう」と意見している人たちは一体どんな人たちなのか。SNS上で該当する投稿を探し、発信元であるいくつかのアカウントに飛ぶと、子育て中の女性が多く目についた。自身が完璧な親ゆえの“聖人君子”のような意見なのかと思ったが……ふたを開けてみれば普段の投稿は、冒頭の女性のように夫や家族の愚痴だらけだったのだ。
また、パートナーに不倫をされたいわゆる“サレ妻アカウント”なども散見された。家庭の事情は千差万別である。経済的な理由などの複雑な事情で、離婚に踏み切れないケースもあるだろう。自由奔放に見える東出さんのような人を見て「自分がこれだけつらい思いをしても、“子どものために”夫婦関係を続けているのに……」といった気持ちになるのは仕方のないことだ。
しかし、「子どもがかわいそう」だと他人の子育てに意見することは「大きなお世話」である。もちろん虐待や命に係わる事象に関して「かわいそう」というのは話が別であるが。
リサーチをしてみた結果、冒頭の女性のように、「子どもがかわいそうだから」という理由で、何らかの我慢をしている人ほど、他人にも「子どもがかわいそう」という言葉を投げかけているようだ。「子どもがかわいそう」いう言葉には、自身の物差しや思い込みが大きく影響している。
もっとも「かわいそう」かどうかは、子ども自身が決めることだ。
※回答者のコメントは原文ママです
この記事の筆者:毒島 サチコ プロフィール
ライター・インタビュアー。緻密な当事者インタビューや体験談、その背景にひそむ社会問題などを切り口に、複数のWebメディアやファッション誌でコラム、リポート、インタビュー、エッセイ記事などを担当。