「後ろめたいことは何もない」が通じた理由
このように「推定無罪の原則」に基づいてクラブも伊東選手を起用し続けたという事実があるからこそ、「全面対決姿勢」がプラスに働いて、「後ろめたいことは何もない」というアピールになった。実際、伊東選手側は刑事・民事で戦いながら、沈黙することなく『週刊新潮』の報道が虚偽であるということをさまざまなメディアで積極的に反論し、このようにアクションを取った動機も説明している。
スポーツ選手に対して大きな大会前に女性との会合を設定した後で、「性被害」を訴えて表沙汰にしてほしくなければ金銭を払えと迫ってくる、いわゆる「美人局」のような金銭トラブルが多発しており、その問題提起の意味合いもあるというのだ。こういう「大義」もあることで、伊東選手側の主張に納得・支持する人たちも増えている。
そこに加えてダメ押しとなったのが、「不起訴」が見えたことだ。7月2日、伊東選手は準強制性交致傷などの容疑で大阪地検に書類送検され、同日、女性2人も虚偽告訴の容疑で書類送検されたが、報道によれすでに大阪府警本部はともに起訴をしないようにということを申し送りしているという。
つまり、刑事事件にはならず、あとは民事訴訟なので、第三者がとやかくいう話ではない。そこでプーマが「広告復活」を決断したというわけだ。
伊東選手の対応は日本企業の参考にはならない
このように伊東選手の危機管理対応は、本人が「推定無罪の原則」が浸透するフランスで活動していたということが大きい。堂々と自分の仕事を続けながら「全面対決」というスタンスを取ることに説得力があり、社会の共感を得たレアケースといってもいい。日本の企業や有名人がこれを参考にできるのかというと難しい。
日本社会では嫌疑をかけられた時点で仕事を奪われ、裁判を起こしても弁護士から「裁判で不利になるのでしゃべるな」と反論できない。だから、週刊誌で疑惑を報じられた人は、その後に名誉毀損(きそん)裁判などで勝っても、ほとんど名誉は回復をしない。「市民裁判」でムードによって人を裁く傾向が強いのだ。
このような日本の「推定有罪の原則」を考慮に入れて、危機管理担当者は世論を味方につけるような対応をしていただきたい。
この記事の筆者:窪田 順生
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経てノンフィクションライター。また、報道対策アドバイザーとしても、これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行っている。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経てノンフィクションライター。また、報道対策アドバイザーとしても、これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行っている。