史上最年少で「永世称号」獲得の藤井聡太七冠、次に獲るのは? 将棋界の「永世称号」とはどんなもの?

タイトル「棋聖」を5連覇し「永世棋聖」の資格を獲得した藤井聡太七冠。21歳での永世称号資格獲得は史上最年少と話題になりました。この「永世〇〇」とはどんなものなのか、どうすれば獲得できるのか、8つのタイトル別に説明します。(写真:毎日新聞社/アフロ)

2024年7月1日に行われた棋聖戦第3局に勝利し、3勝0敗でタイトル「棋聖」を防衛した藤井聡太七冠。

これにより「棋聖」は5期連続の獲得となり、「永世棋聖」称号の資格を獲得しました。史上最年少での永世称号資格獲得で、これまで23歳11カ月だった最年少記録を大幅に更新し、21歳11カ月としました。

「永世棋聖」となった藤井聡太七冠の画像
連続5期獲得で「永世棋聖」となった藤井聡太七冠。史上最年少で「永世称号」資格を獲得した(写真:毎日新聞社/アフロ)

藤井聡太七冠が「永世棋聖」と呼ばれるのは引退後

資格獲得という書き方になるのは、永世称号は原則としてその棋士が現役を引退した後に呼ばれるためです。藤井七冠が「永世棋聖」と呼ばれるようになるのは、おそらくずっと後のこと。

ただし、谷川浩司十七世名人のように現役であっても、還暦を迎えたタイミングで「永世名人」に襲位(しゅうい・その地位に就くこと)して、十七世名人(名人に限り「永世名人」の資格を獲得した順に○○世とつく)となった例もあります。

藤井七冠は17歳11カ月という史上最年少でタイトルを獲得し、そこから5連覇したのですから最年少で「永世棋聖」も当然なのですが、本来、同じタイトルを何度も獲得して永世称号の資格を獲得するのは大変なこと。そのため、永世称号の資格を得ている棋士はごくわずかです。

そこで今回は、永世称号の資格獲得の条件と資格を持っている棋士を、これから行われるタイトル戦の順に紹介します(開催順が入れ替わる可能性はあります)。

【王位戦】永世王位の条件:連続5期、もしくは通算10期

該当棋士:大山康晴(故人)、中原誠(引退)、羽生善治

現在進行中のタイトル戦で、第1局は2024年7月6~7日に藤井聡太王位の勝利で終了。第2局が7月17~18日に行われます。タイトル戦には1局が1日で終わるものと2日がかりのものがあり、王位戦は2日制です。

藤井王位(タイトル戦では、タイトル保持者はそのタイトル名で呼ばれます)は18歳で王位のタイトルを獲得し、現在4連覇中。今回タイトルを防衛すれば連続5期となり、「永世王位」資格獲得となります。その場合、史上最年少での「永世二冠」達成です。

永世王位は連続5期も条件のひとつなので、もしも藤井王位が今回タイトルを失うことになると、もう一度5期連続、もしくはあと6期王位を獲得する必要があり、ぐっと難易度が上がります。

【王座戦】名誉王座の条件:連続5期、もしくは通算10期

該当棋士:中原誠(引退)、羽生善治

永世ではなく「名誉王座」の称号になる王座戦。藤井七冠が2023年に獲得し、全冠制覇の「八冠」となったタイトルです。

そのときに王座を奪われたのが永瀬拓矢九段。敗れたとはいえ、周到な準備で藤井七冠をあと一歩のところまで追い詰めた戦いぶりは、多くのファンの胸に刻まれています。

その永瀬九段は、王座戦挑戦者を決めるトーナメントを勝ち上がり、7月22日には羽生善治九段との挑戦者決定戦を控えています。永瀬九段が勝ち、リベンジマッチとなる藤井聡太王座への挑戦を決めるのか、羽生九段が53歳でのタイトル挑戦なるのかに注目が集まっています。

永瀬九段はそれまで王座を4期獲得していて、通算10期の条件をクリアするのに近い棋士でもあります。対する藤井王座は今回、王座2期目がかかります。

【竜王戦】永世竜王の条件:連続5期、もしくは通算7期

該当棋士:渡辺明、羽生善治

第1局が2024年10月5~6日に行われることが公表されている竜王戦。現在、挑戦者を決めるトーナメント戦が進行中で、7月17日終了時点で6人に絞られます。竜王獲得経験1期の佐藤康光九段と広瀬章人九段も勝ち残っており、竜王に挑戦する可能性があります。

対する藤井聡太竜王は、3期連続で竜王を獲得しており、あと2期続けて獲得すれば「永世竜王」の資格獲得です。

【王将戦】永世王将の条件:通算10期

該当棋士:大山康晴(故人)、羽生善治

例年、年明け早々に第1局が行われる王将戦。他のタイトルと違い、連続でもそうでなくても10期獲得しないと「永世王将」の称号は得られません。その難しさからか、73期と長い歴史があるのに永世王将は2人だけ。

現時点で王将を3期獲得している藤井聡太王将の他にも、過去に5期獲得した渡辺明九段や4期獲得した久保利明九段が、永世王将の可能性が比較的高いといえます。

【棋王戦】永世棋王の条件:連続5期

該当棋士:羽生善治、渡辺明

日程的に並行して行われることの多い前述の王将戦とは逆に、通算の条件がない棋王戦。3期、4期と連続して棋王を獲得しても、5期目を前に途切れてしまったら、また最初から連続して棋王を獲得しない限り「永世棋王」の称号は得られないという難易度です。

現在、藤井聡太棋王は2期連続で棋王を獲得しています。

【名人戦】永世名人の条件:通算5期

該当棋士:木村義雄十四世名人(故人)、大山康晴十五世名人(故人)、中原誠十六世名人(引退)、谷川浩司十七世名人、森内俊之(十八世)、羽生善治(十九世)

毎年4月前半に開幕する名人戦は、もっとも長い歴史を持つタイトル戦でもあります。「永世名人」ではなく「〇〇世名人」と呼ばれるのは、名人が江戸時代から続く称号であるから。

一世名人の大橋宗桂は、江戸時代初期に名人の位にありました。といっても現在のような実力がある者が勝ち抜いてタイトルに挑戦するような形ではなく、当時は世襲制でした。1949年に永世名人の資格を獲得した木村義雄十四世名人以降は、実力制の永世名人です。

現在、藤井聡太名人は2期連続で名人を獲得しています。

【叡王戦】永世叡王の条件:通算5期

該当棋士:なし

6月にフルセットの末、伊藤匠新叡王が誕生した叡王戦は9期目が終了したところ。タイトル戦になったのは3期目からで、まだ通算5期の「永世叡王」の資格を獲得した棋士はいません。通算5期は他のタイトルに比べて、永世称号の資格獲得条件が厳しいわけではありません。

とはいえ、3期獲得の藤井七冠が叡王戦の挑戦者決定トーナメントを勝ち上がり、タイトルを奪取してあと2期獲得を伸ばすにせよ、伊藤叡王がこのまま叡王を防衛し続けるにせよ、永世叡王の資格獲得者が出るまでには、もう少し時間がかかりそうです。

【棋聖戦】永世棋聖の条件:通算5期

該当棋士:大山康晴(故人)、中原誠(引退)、米長邦雄(故人)、羽生善治、佐藤康光、藤井聡太

藤井七冠の最年少での永世称号獲得となった棋聖戦。藤井聡太棋聖が5連覇する前には、渡辺九段が1期、豊島将之九段が1期棋聖を獲得していますが、その前は羽生九段が10連覇、その前は佐藤康光九段が6連覇しています。

つまり「永世棋聖」の資格を持たない棋聖のタイトル経験者が少ないともいえ、次の資格獲得者が出るまで、一番時間がかかるタイトルとなりそうです。

20年以上かかった羽生善治九段の「永世七冠」達成

各タイトルの永世称号資格を持つ該当棋士の名前を見ると分かるように、羽生九段は「永世称号」を7つ持っていて、「永世七冠」を達成しています。もちろん将棋史上初の快挙でした。

25歳で当時のタイトルを全冠制覇して「七冠」を達成し、全タイトル合わせて99期獲得してきた羽生九段ですが、永世称号7つ目の「永世竜王」の資格を獲得したのは七冠達成から20年以上たった47歳のときでした。

多くの最年少記録を打ち立ててきた藤井七冠が、史上最年少での「永世七冠」や前人未踏の「永世八冠」を達成する日は来るのか。今後も引き続き注目のポイントです。

※段位、タイトル数は2024年7月16日時点
※永世名人以外、永世称号の該当棋士名の段位、敬称は略

この記事の執筆者:宮田 聖子
ライター。アマチュアの将棋大会の運営を16年続けつつ、文春オンラインとマイナビ出版・将棋情報局にプロ棋士のインタビューやアマチュア将棋の記事を執筆。
Lineで送る Facebookでシェア
はてなブックマークに追加

編集部が選ぶおすすめ記事

注目の連載

  • 恵比寿始発「鉄道雑学ニュース」

    静岡の名所をぐるり。東海道新幹線と在来線で巡る、「富士山」絶景ビュースポットの旅

  • ヒナタカの雑食系映画論

    『グラディエーターII』が「理想的な続編」になった5つのポイントを解説。一方で批判の声も上がる理由

  • アラサーが考える恋愛とお金

    「友人はマイホーム。私は家賃8万円の狭い1K」仕事でも“板挟み”、友達の幸せを喜べないアラサーの闇

  • AIに負けない子の育て方

    「お得校」の中身に変化! 入り口偏差値と大学合格実績を比べるのはもう古い【最新中学受験事情】